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谷中(1) 御殿坂から

 ここ数年、ちょっとしたブームの感のある谷中散歩を日暮里駅(JR、京成)から始めてみよう。

 駅の裏口(西口)を出ると、すぐ左手に墓地が見える。そしてその先右の立派なお寺の山門。

 
かつては夕焼けの中に富士山が見えたといわれる階段。酒屋の店員が配達していた
(写真・横田正大)

 この、まず目に飛び込んでくる墓地とお寺の光景が、他の町と時間の流れが異なる印象を与える。特別な町にやって来たぞ、という期待が生じる。

 駅から、少し上り勾配(こうばい)の坂が御殿坂。この道の右側は荒川区で左側が台東区。

 右手の山門は月見寺で知られる本行寺。俳人・小林一茶ゆかりの寺でもある。

 ところで、この谷中のように、元来が墓参のためにやってくる人々や、土地の人がひっそりと暮らす町では、他所者(よそもの)はそれなりの散歩マナーが必要となる。ただ好奇心だけで、お寺の境内や、人の暮らす路地の奥に、ズケズケ、ドヤドヤと入り込んでよいはずがない。

 さて、その本行寺の先からいかにも昔ながらの下町風の商店が続く。

 日本酒の品ぞろえの豊富なそばの川むらあづま家花家と2軒隣り合わせの甘味屋。甘味屋といいながら2店ともラーメンや丼物もあるという昔風。
 その先がいつも人だかりのしている佃煮(つくだに)の中野屋
 他所から来た人は、この中野屋の佃煮か斜め向かいの谷中せんべいをお土産にする人が多いのではないか。

 この谷中せんべいの先の道を左折すれば朝倉彫塑館だが、今回は直進する。

 この道の先の風景がなんともいえずいい。道がYの字形に二股に分かれ、左は七面坂、右はその名も夕やけだんだんの石段となる。
 この階段に至る道沿いのペットホテル、居酒屋、ハンコ屋、民間薬店、ペルシャ料理店、焼き鳥屋など、いずれも一クセも二クセもある魅力を発している。

 では、階段脇にたむろする猫と戯れつつ夕暮れを待つか。そして日が暮れたら、どの店に闖入(ちんにゅう)しようか。

→ 谷中(2) 谷中銀座 へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年12月18日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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