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谷中(3) 朝倉彫塑館へ

 日暮里駅西口、御殿坂を登り、谷中せんべいの先を左折すると朝倉彫塑館へと至る。
 この道の左右がなかなかおもしろい。

和洋折衷が巧みな朝倉邸。神奈川県真鶴町の海底にあったという巨石が客を迎える
(写真・横田正大)

 左折するとすぐ左が、なにやら戦後のマーケット風のディープな雰囲気。
 細い路地に居酒屋の看板がズラーッと並んでいる。唯一例外は都せんべい
 この店がなかったら「谷中にある新宿ゴールデン街」といいたくなる。

 この路地、人呼んで初音小路とかいうらしい。一見奥は行き止まりのようだが実は抜け道がある。

 さて、元の道に戻って少し行くと右側に錻力(ブリキ)の吉川、銅製品の銅菊といった職人の家がある。
 錻力という表示にせよ、銅菊という屋号にせよ、それ自体が町の歴史を感じさせてくれる。

 その先、すぐ左の、なにやら黒い影のような洋館が朝倉彫塑館。
 日本近代の代表的彫刻家朝倉文夫のかつてのアトリエ兼、私邸である。

 この建物および庭園が、かなりユニーク。ひとことで言ってしまえば、そう、江戸川乱歩の世界に似つかわしい、というか。

 建物の外観が黒いのも道理、なんと外壁はコールタール塗りという。
 そして屋上。いわゆる屋上庭園があるのだが、まるで、この建物と住人を守護するかのように彫像がひっそりと配置されていて、いつもドキッとしてしまう。

 表面からの外観はこのように洋風なのだが、アトリエの奥の庭と、それを囲むように建つ建物は見事な数寄屋造りなのである。
 この庭がまた独創的。水の色を見ただけでも、この池が相当の深さであることが想像できる。そして過剰なほどの石組み。朝倉はなぜこんな庭を造ったか。

 謎と物語が仕掛けられた空間――それが朝倉彫塑館だ。たった400円の入場料で、朝倉の作品群とともに、そのミステリーが味わえる。

→ 谷中(4) 観音寺築地塀 へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2003年1月8日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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