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千駄木(1) 駅周辺

 千駄木駅周辺には心ひかれる飲食店が点在する。

 三崎坂から不忍通りに向かって歩いて団子坂下の信号の手前、右手の、汽車ポッポの料理・せとうち。見るからに鉄道マニア御用達の店。また信号左角の、れんが造りの喫茶・千駄木倶楽部
 その斜め向かいの角のイタリア料理・イルサーレ。そして、その並び右の洋菓子のタバーン。いずれも雑誌などでおなじみの店であり、散歩の途中、気軽に立ち寄れる店である。

団子坂下、れんがの喫茶店。「ケーキおいしかったね」。母娘が話しながら通り過ぎた
(写真・横田正大)

 しかし、さらにマニアックというか、ディープな雰囲気の一角がある。
 そこだけが戦後のマーケットがそのまま残っているような横丁。
 他から来た人なら、まず知ることもなく立ち去ってしまうであろう飲食街。

 それが千駄木三丁目のすずらん通りである。

 不忍通りを千駄木駅から道潅山下方向へと歩く。千駄木三丁目の信号をこえて少し行くと、右手にボーッと薄暗いネオンに「千駄木3・すずらん通り商店会」と読めるゲートの前に出る。
 この横丁の入り口に立てばそれだけで、このエリアの気配は伝わってくる。
 とんかつ屋、スナック、居酒屋、そば屋といった看板やネオンが、ひっそりと灯をともしている。

 じつは、この飲食街の存在、根津の古書店・古書桃李のご主人から伺った。
 古書を物色し、これはと思う本があったらレジへ持ってゆく。このときが、その町の情報収集のチャンスである。
 世間話をする要領で、「このへんに、おもしろい飲み屋はないですかねえ」などと聞いてみる。

 で、(ははん、あのあたりか)とやってきたのが、この横丁であった。
 初めての店で、常連に気おされて少しの酒で酔う。店を出て先を行くと、おやここは谷中よみせ通り。

 なにか狐(きつね)につままれた気分の春の夜となる。

→ 千駄木(2) 団子坂上 へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2003年3月26日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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