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千束周辺(6) 一葉記念館へ

 鷲(おおとり)神社、長国寺の裏通りに、1年のうち酉(とり)の市の日だけ、ひっそりと営業をしている居酒屋がある。
 かつては奥の座敷まで客でいっぱいになり、店中、買ってきた熊手が立ち並んでいたというが、店の夫婦が年をとり、昔の客のために酉の市のときだけ店をやることにしているという。
 数年前から、偶然のようにこの、小説の世界のような店に客としてまぎれ込み、今年もまた熱かんとおでんで体をあたためた。

 そのとき、客の話の流れで、台東区立一葉記念館の話になった。樋口一葉が新五千円札の顔になることに決まって、このごろ一葉記念館に訪れる客がぐんと増えたというのである。
 観光地、浅草からかなり離れている一葉記念館までわざわざ足を向ける人は、そう多くなかったはずなので、どんなきっかけにせよ、ここ竜泉に人を呼べるとなれば頼もしいかぎり。

 そこで、散歩コースを考えてみる。仮に浅草からだとすれば、国際通りの鷲神社前を経由、西徳寺前の信号、右斜めの道を入ってすぐ、国際通りと平行する横丁をまがると、いかにも下町のお不動さんといった雰囲気の飛不動がある。
 このお不動さん、その名前からか航空関係の信心を得ている。私は海外旅行に行く友人にここのお守りを贈って喜ばれている。

樋口一葉が住んだ竜泉。新五千円札の図案に決まり、肖像に注目が集まる一葉記念館 
(写真・横田正大)

 そのまま先を行くと、すぐに飛不動前の信号になる。ここを右折、1本目の横丁を左折すれば、右手が一葉記念館。
 一葉は、この地で生活費を稼ぐために、駄菓子や雑貨の店を始める。そしてそこで見聞きしたことが「たけくらべ」に結実する。
 「たけくらべ」を開けば、冒頭から、背中合わせの街・吉原のさざめきや、一葉の住んでいた界隈(かいわい)の酉の市の熊手づくりの様子などが描かれている。

 一葉記念館から北へ500メートルも行けば、三ノ輪である。そう、東京で唯一残る都電の発着地もある。

→ 浅草寺周辺(1) メトロ通り へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)




2003年12月3日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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