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お茶の水(3) 明神下へ

 神田明神といえば、神社境内には銭形平次と「がらっ八」こと八五郎の碑が立っている。
 銭形平次、作家・野村胡堂が生んだ時代小説のヒーロー。ここぞというときに、つぶてならぬ、寛永通宝の銭を投げつける。この碑を建てたのが映画会社の大映、東映、そして長谷川一夫、大川橋蔵といった平次の当たり役を演じた俳優や出版人。

 平次は、この神田明神下に住んでいたことになっている。「いかにも、この神社にふさわしい碑だな」と思いつつ、再び神社の正面に戻る。
 鳥居すぐ脇の天野屋については前回ふれたが、この参道には揚げまんじゅうの「神田揚げ」巴屋、「明神そば」きやり、「延寿甘酒」三河屋といった、参詣者(さんけいしゃ)のための土産物屋やお休み所的な店もある。

 さて、神田明神を後にして、どちらに流れるか。もし酒亭が開いている時間なら、私は迷わず神社正面の右手、ほれぼれするような石段の、明神男坂を下りてゆく。

男坂の下から見上げると、急勾配(こうばい)がよく分かる。昼下がり、それぞれの生活が垣間見えた 
(写真・横田正大)

 湯島天神の男坂もそうだが、急な石段を一段一段下りてゆくと、目前の風景は当然現代なのに、なぜか江戸、明治の空気に触れているような気がしてくる。
 この界隈(かいわい)、明治の石版名所絵などを見ると弦歌さんざめく花街の光景。その雰囲気はわずかに今日に残る。

 男坂を下り切ると右手に居酒屋、章太亭の看板が見える。いかにも粋筋を思わせる店がまえ。
 その少し先に、文人御用達の店、ふぐの左々舎(ささや)があったが、ちょっと移って、今は、男坂下1本目の横丁を左に折れた右側で営業している。冬はもちろん、ふぐがメーンだが、「色っぽい」主の手になる季節の酒肴(しゅこう)のファンも多い。
 その先が、ちゃんこ鍋の一の谷。相撲にご縁の店で、タイのすり身のつみれが、あっさりとした味で品がある。

→ お茶の水(4) 茗渓通り へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)




2004年5月19日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から

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