古美術品の場合、鑑定書の意味が失われてきたので、多くの館で鑑定はしません。それは、古美術の真贋(しんがん)が単純なものではないことがわかり出したためです。
絵の場合、画家が弟子に代筆させ、その作品に自分のサインを入れることがあります。また、ある館で雪舟の贋作(がんさく)とされてきた無款の作品が、雪舟に影響を受けた桃山時代の巨匠・長谷川等伯の真作と判明し話題を呼んだことがあります。元々あった等伯の印を消し、雪舟の作として流通させたものであることがわかったのです。
狩野派では古画の原寸模写をやります。その段階では単なる複製ですが、これに雪舟などのサインを入れて売ると贋作になります。
このように作品は複雑な真贋の中に漂っているので、せめてどのような位置にあるのかの相談にのる館は少しあるようです。かつて、私も九州から持ち込まれた作品につき、親切心から手紙で答えたところ、その手紙付きで売りに出回ったので、以後口頭でしか答えません。バブル崩壊後は弁護士事務所から相談があり、何事かと思えば遺産相続のための真贋判定でした。
真贋は価格と密接に結びつくことなのですが、価格はあくまで流通の分野で決めることで、鑑定と一線を画します。
(ガイド 板橋区立美術館学芸係長 安村敏信)