私にとっての理想の美術館とは? 思ったことだけ述べると、まずは環境で、いくら便利でもごみごみした騒がしいところはだめです。それと、建物の設計は展示効果を最優先したものであってほしいのですが、と同時に訪問者の心をなごませるデザインの美しさも欠かせません。
つぎに、これが一番重要ですが、観客の心を奪う魅力たっぷりの作品がいつ行っても見られることです。日本の古美術品は長期の展示には向きません。とすれば模造品(レプリカ)ではどうでしょうか。アメリカ人などはレプリカが大嫌いと聞きましたが、現在の発達した科学技術を伝統の職人技と結びつけて、一見本物とまったく違わないレプリカをつくれば、かれらの見方も変わるでしょう。本物の展示は一定期間だけにすれば、保存の問題が解決されます。
魅力ある企画、こんな世界があったのかと驚く斬新な展示もほしいですね。そのためには学芸員の勉強が必要です。学芸員が雑用に追われて研究できないということが無いよう、配慮も望まれます。
現在ある美術館でどれが一番お気に入りかと尋ねられれば、鎌倉の神奈川県立近代美術館をまず思い浮かべます。老朽化がみられ、やや小ぶりに感じられますが、この美しい近代建築の床下はそのまま鶴岡八幡宮の蓮池で、一階の縁から池に遊ぶ鴨(かも)や鯉(こい)などを眺める気分は格別です。今後とも保存したい名美術館です。
(ガイド 東大・多摩美大名誉教授 辻惟雄)