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2006.4.5(水)更新  石原良純のあした天気に
石原良純のあした天気に
スプリング・ハズ・カム
題字・イラスト  井沢洋二
 晴海埠頭(ふとう)ロケのなか空き時間が三時間。僕は意を決してテニスコートへ向かった。日曜日の首都高を使えば片道三十分、二セットはゲームを楽しめる。

 ちょっと無理な計画を僕に思い立たせたのは、レインボーブリッジの足元をのんびりと水上バスが行き交うのどかな景色。そして何より、やわらかな日差しと暖かな海風だ。

 春はまず、視覚からやって来る。冷たい冬の季節風が枯れ枝を揺らすモノトーンな景色が、天高く昇るようになったお日さまの陽の光を受けて、輝き出す。木々の枝にはつぼみがほころび始め、枯れ葉も葉緑体を取り戻す気配。それが′の春。だが、そんな景色に誘われて勇んで表に出ると、思わぬほど冷たい風に身を晒す羽目になる。街に光りは溢(あふ)れていても、いまだ空気のぬくもりは感じられない。からだ全(すべ)てで春を感じる本格的な春、°C温の春までには、まだ少し時が必要だ。

 春の天気はコロコロと変わる。低気圧は西から東へ日本海を進むこともあれば、日本列島を南岸沿いに進むこともある。進むコースによって、低気圧は南から暖かい空気を引き込んだり、北から冷たい空気を引き込んだり、暖かい雨や冷たい雨を、短い周期で日本列島にまき散らす。

 予想よりも南岸低気圧が北よりのコースをとったから、ところによってはまとまった雨となった。雨のおかげでテニスコートがクローズとは。

 “Spring has come”そんな、中学校で習ったフレーズが、僕の頭の中に浮かんできた。テニスが出来なくたって腹が立つはずもない。今年初めて感じた春の柔らかな空気に包まれているのだから。僕はのんびりと、コート整備を眺める。

 最近は、気象庁が発表する春一番の情報を気にかける人が多くなった。天気のことに興味を持つ人が増えたのは嬉(うれ)しいが、¥tが来たことは人から教えられるものではない。ふっと凍えていた肩の力が抜けた瞬間、その人にとっての春の訪れを自分自身の五感で感じとってほしい。

 僕は今年の春と、晴海埠頭で出会った。

いしはら・よしずみ 俳優・気象予報士。62年神奈川生まれ。84年デビュー。舞台、映画、テレビで活躍中。97年気象予報士に。「FNNスーパーニュース」でお天気キャスターを担当。

(2006年4月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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