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題字・イラスト 井沢洋二
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地上を1気圧、1013ヘクトパスカルとすれば、上空5000メートルでは540ヘクトパスカル、空気は下界のほぼ半分しかない。
僕が標高5000メートルの世界を体験したのは、アフリカ大陸の最高峰、標高5895メートルのキリマンジャロ登山でのこと。
薄い空気は必死に肺を膨らませて体内に取り込んでも、血液中の酸素濃度を満たしてはくれない。酸欠は、吐き気となって僕を苦しめる。希薄な空気は、人の命をいとも簡単に奪うことさえある。
少ない酸素に頭の中は真っ白になり、思考は止まる。それでも、軋(きし)む体を励ますために、数を数えながら山頂へ続くガレ場を進む。
1で右足が前へ。2で左足が前へ。3、4はその場で軽く足踏みする。歩む速度は下界の2分の1、それが、空気が半分の世界で僕がみつけた登山のルールだ。
標高5000メートルを駆ける鉄道が、今月1日に開通した。$「界の屋根と呼ばれるチベット高原を貫き、中国・青海省西寧とチベット自治区ラサを結ぶ青蔵鉄道。未開通部分だったゴルムドとラサ間が竣工(しゅんこう)したのだ。
新区間は1142キロのうち、なんと標高4000メートル以上の区間が8割以上、平均標高は4500メートルにも達する。一番高い所はタングラ山脈中で5072メートル、正に世界で最も高い所を走る鉄道なのだ。
青蔵鉄道の客車は、気圧調整可能な密閉車両。さらに、高山病を訴える乗客のために酸素マスクが座席に装備されている。また、高原の強い紫外線を防御する特殊なガラス窓や避雷針など、過酷な自然条件に対する様々な工夫が凝らされている。
標高5000メートルの沸点は84度となれば、食堂車で食事を取る乗客のご飯は、圧力釜で炊いているに違いない。
しかし、鼻からチューブで酸素吸引しながら食べる中華料理は、果たして美味(おい)しいのだろうか。
かつてキリマンジャロ登頂を終えた僕は、標高4500メートルあたりでようやくの空腹感に、チョコレートを口に含んだ覚えがある。
乗りたいような、乗るのは怖いような、高原列車は希薄な空気の中を今日も行く。