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2006.3.22(水)更新  特集/夜桜に酔う
 

 闇の中に浮かぶ幻想的な夜桜。その魅惑にとりつかれる人は少なくない。長野県上田市の「千本桜」のライトアップを手がける照明デザイナーの石井幹子さんもその一人。薄紅色を照らす光には、特別な思いが込められていた。
 
上田城の千本桜=昨年。点灯は4月1日(土)〜23日(日)、午後6時〜翌午前0時。見ごろは4月中旬。お問い合わせ先市観光課(0268・22・4100)。
 光でたたえる崇高美
 照明デザイナー 石井幹子さん

 桜前線、開花宣言という言葉があるように、多くの人がその花の咲くのを待ちわびる。平安の歌人がうたった狂おしさとつややかさ、潔さ。それを一層、引き立たせるのが夜の桜。開花の時期は1週間余り。「少しでも長く」というわがままをかなえてくれる時間は、人の心を豊かにする。

 戦国武将・真田氏ゆかりの上田城を覆う700本のソメイヨシノ。「千本桜」と名付けられた桜を、昨年から石井さんがライトアップしている。毎年少しずつ増やし、3年後の「完成」を目指している。

 東京タワーやお台場のレインボーブリッジ、東京駅レンガ駅舎など、何もしなければ、夜の闇に消えてしまう物にも「新しい命」を吹き込んできた。

 そんな石井さんにとっても桜は特別。老いた母がここ数年、「今年が最後の桜かな」と口にするようになった。そんな花をほかに知らない。何もしなくても美しく、崇高な存在をより引き立てるため、光は「最も桜の花を引き立てる色」を厳選。生育と環境に配慮した間接照明の技を駆使する。

 本来なら、植物に光を向けるのは自然の原理に反すること。しかし、待ちわびていた人の思いに懸命にこたえる姿をたたえるのなら、「理にかなったことなのかもしれない」とも思う。

 浮かび上がる空間は昼にはない妖艶(ようえん)美。夜独特の空気の湿り、樹皮の冷たい感触。耳をすませば静寂の中で花弁の揺れる音が聞こえる。陰影をたたえ、柔らかな春の風に舞う桜も、また格別だ。


 いしい・もとこ 都市照明から光のパフォーマンスまで、幅広い領域を開拓。5年の愛知万博(愛・地球博)では照明専門プロデューサーを務めた。

桜越しに浮かぶ三重塔

三渓園  大池を囲むように咲く桜の向こうに三重塔が浮かぶ。横浜市中区の三渓園(TEL045・621・0634)には、ソメイヨシノを中心に、岐阜から移植されたウスズミザクラ、カンヒザクラなどが約300本。ライトアップされると桜が池に映り、囲まれているような錯覚すら覚える。できるだけ自然のままの風情を壊さないよう、明かりも建物や桜で色を変え、足元などの明かりも危なくない程度に抑えている。3月24日(金)〜4月2日(日)、日没〜午後9時(開園は午前9時)。

歴史香るホテルの庭

高輪プリンスホテル  1971年の開業当初から庭園内の桜をライトアップをしてきた東京都港区の高輪プリンスホテル(TEL03・3447・1111)。「わずか10基の照明で、鐘楼や石段付近の木を照らしていた」という。年々照明の数は増え、今では102基に。ホテルの屋上に設置したライトは、庭全体を華やかに演出する。明治時代の洋風建築「貴賓館」裏には、ソメイヨシノの古木。建物を照らす温暖色の光が、桜を温かく包む。200本を越える桜は全部で14種。遅咲きの八重桜などは4月中旬ごろまで楽しめそうだ。
 開園は午前8時〜午後11時、ライトアップは日没〜午前1時半まで。

春の陰影に浸る

六義園  大門を抜けると、真っ正面に樹齢約70年のシダレザクラが現れる。東京都文京区の六義園(TEL03・3941・2244)のシンボルで、滝のように流れるこの桜には愛好者も多く、5年前にライトアップを始めたのも「夜桜が見たい」という声に押されたから。足元には竹で包んだライトを配し、桜だけでなく「庭園全体の陰影を楽しんでほしい」と、照明デザイナーが腕をふるっている。3月29日(水)まで、日没〜午後9時(開園は午前9時)。

写真はいずれも昨年以前に撮影。

(2006年3月22日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)
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