演劇経験の有無ではなく、歩んできた道のりの長さと、新しい一歩を踏み出す「情熱」――演出家の蜷川幸雄さん(70)が率いる55歳以上の演劇集団「さいたまゴールド・シアター」が、「彩の国さいたま芸術劇場」を本拠地に先ごろ、誕生した。47人の団員は55〜80歳、平均年齢は66・6歳。元会社員もいれば、主婦もいる。
劇団の目標は、演劇畑を歩く玄人とは違う、年輪を刻んできた人が作る新しい舞台。老後の道楽ではないプロの俳優をめざそうと、あえて「シルバー」を上回る「ゴールド」を劇団名にとった。
3月のオーディションには、若いころの夢に再トライした人、退職を機に何かに挑戦したかった人など、1011人の中高年が集まった。選ばれた団員のほとんどが素人。セリフはどれくらい覚えられるのか、息が続く長さは。蜷川さんにも予測はつかない。レッスンは週5日、1日4〜5時間。様子を見ながらメニューを決める。蜷川さんにとっても、団員にとっても、全く新たな試みのスタートだ。
埼玉県の高橋清さん(78)は、応募時からこれまでを振り返って「応募してよかった。人生の中で、こんなにすがすがしい緊張感が続いた時間はなかった」。東京都の高階菖子さん(69)は「人生のフィナーレに、好きなことをやりとげたいと思って……」。
日本を代表する演出家で、劇団のまとめ役となった蜷川さんも、70歳。自らも、現状に甘んじないで歩み続ける「情熱」の人だ。人が生き抜いてきた歳月を基調にした「身体表現」。そんな、これまでになかったことへの挑戦は、自身に対するレッスンでもある。
一人ひとりが生きてきた証しを演技として表現する、人生経験に焦点を置いた新しい舞台。来春の本舞台をめざす47人の挑戦は、いま始まったばかりだ。