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2006.6.14(水)更新  特集/太宰の魅力 時を超え
太宰の魅力 時を超え

 6月19日は小説家・太宰治の命日「桜桃忌」。太宰をしのび、東京・三鷹の禅林寺には毎年、多くの人が集まる。時を超えてなお、読者を惹(ひ)きつけ、読み
継がれ、関心を持たれるカリスマ性。太宰に動かされている人々がいた。

桜桃忌
 同郷の津軽の作家・今官一が、太宰の晩年作「桜桃」から命名。埋葬されている禅林寺をはじめ、18日には、ゆかりがある山梨県富士河口湖町や静岡県沼津市でも、生涯をしのぶ催しがある。6月19日は太宰の誕生日でもあり、出身地の青森県五所川原市金木町では、99年から「生誕祭」と名称を改めた。


ゆかりの三鷹で朗読・演劇

 東京都三鷹市。太宰が最期を迎えた1948年まで暮らした地だ。19日、禅林寺では経をあげ、有志が太宰への思いを語り合う。市民ボランティア「みたか観光ガイド協会」も例年通り、寺を訪れた人に太宰ゆかりのスポットを案内する。前日の18日には、市芸術文化センター(TEL0422・47・5122)で太宰作品の朗読会がある。今年で7回目だが、毎年、俳優と扱う作品が変わる。

 発起人は、同センター演劇企画担当の森元隆樹さん(42)。学生時代には太宰の作品名からとった劇団「グッド・バイ」で脚本、演出を手掛け、自宅の本棚には全集が並ぶ。いまも、たまにページをめくる。「スキャンダラスな人生が前面に出されがちですが、語り継がれる理由は、見事な心理描写と、流れるような文章のうまさにあるのでは」

 三鷹は太宰ゆかりの地。そして何よりも同センターのすぐ近くに禅林寺がある。桜桃忌にふさわしく「作品をしみじみと味わえる朗読会を」と考えた。太宰を感じさせる俳優を絞り込んで、交渉が始まる。励みは、誰が何を読むのかと楽しみにしてくれる人たちだ。

 今年は、3年越しの交渉で実現した長塚京三さんの「帰去来」と「故郷」。チケットは即日完売した。22〜25日には、太宰作品をモチーフにした演劇公演も予定している。


青森市の合浦公園
 ブック&カフェ「フォスフォレッセンス」(TEL0422・46・1004)の店長、駄場みゆきさん(40)が02年に開店した店は、禅林寺に近い三鷹図書館の隣。店内には太宰の作品や関連本が並ぶ一角があり、客が持ってきてくれた新聞の切り抜きや雑誌のコピーが積まれている。

 桜桃忌には思い出が多い。以前は、住んでいた京都市から深夜バスで禅林寺に向かっていた。いまは、19日の前後にひっそりと墓参りをする。当日は、ファンとともに桜桃(サクランボ)をつまみながら、作品を論じたり、朗読したりして座を囲む。墓参り後も余韻に浸っていられる場所だからこそ。駄場さんは司会役、夫はコーヒーを入れる。

 7年前、深夜バスで着いた早朝。禅林寺の墓前で偶然に会ったのが、四国の松山市から来ていた、いまの夫だった。6月19日は2人が初めて出会った日でもある。



写真で−−「津軽」
青森市の合浦公園別名「津軽富士」と呼ばれる岩木山

 :中学校の行き帰りに通った青森市の合浦公園
 :津軽富士の別名を持つ岩木山(新装「津軽」から ©みやこうせい)

 生まれ故郷の旅を描いた太宰治の「津軽」。この全編にカラー写真50点を添えた新装「津軽」(未知谷刊、2100円)が14日以降、書店に並ぶ。太宰が確かに見ただろう風景を、エッセイスト・みやこうせいさん(68)が「イメージ」した。

 思い出の人々との再会を懐かしく回想し、読者を旅の心に引き込んだ作品。「この角度か、もっと右か」。レンズから風景をとらえる「心」は、常に太宰と対話していた。そして「2人の思い」が交差したとき、シャッターを切った。

 「津軽」は何度も反芻(はんすう)した。文字から想像した岩木山や桜、港……。現実として目の前に現れるたびに「太宰の文の冴(さ)えを再認識した」。

 3度足を運んだ灯台がある。その当時の情緒を表すために、「太宰が見た灯を撮りたい」とこだわったためだ。作品が世に出て半世紀。辺りは建物が増え、風景は大きく変わった。でも日が落ちて闇となれば、そこに浮かぶ明かりは太宰の感じたロマンを伝えていた。

 ようやく出会った哀愁と懐かしさ。「ぼくと太宰は重なった、と感じる瞬間だった」と言う。


映画で−−「富嶽百景」

映画「富嶽百景」

 16日まで公開中の映画「富嶽百景」は、太宰治の原作を映像作家・秋原正俊さん(42)が現代風にアレンジしたものだ=写真は映画の一場面。

 文学作品の映画化には作家を知る楽しさがあると言う。原作を忠実になぞるのではなく、作家の生い立ちから創作に至るまでを調べ、自身の解釈も伝える「新感覚ブンガク映画」に仕立てた。

 青森県弘前市を訪ねた。調べていくうちに、世間が持つ「暗さ」より、むしろユーモアや優しさを感じた。「自身をどう見せるかという自己プロデュース力にたけていたのでは」。同じ表現者として、太宰にますます魅力を感じた。

 「富嶽百景」は、実際の体験を素材にしているため、主人公と太宰本人とが重ね合わせてとられやすい。「この映画で太宰の『暗い』というイメージを打ち壊せれば」。

 いま、さまざまな世代がこの映画を見ている。

(2006年6月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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