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春奈先生の独断性教育

第1回 したいのか、したくないのか、自分の心に聞いてみて

イラスト

 イラストレーター・平泉春奈さん(春奈先生)の描き下ろしイラストと一緒に、性のお悩みを解決するコーナー。第1回のテーマは「性的同意」です。
 春奈先生のインスタグラムでアンケートを募集すると、「同意の取り方がわからない」「雰囲気がなくなってしまう」など数々の声が届きました。なぜ重要なのか、一緒に考えてみませんか?(聞き手・田中沙織)

◇ 春奈先生のおはなし ◇

 性的同意とは、性的な行為の際に相手と積極的な意思確認をとること。でも、「積極的な意思」って、意思表示する側にとって、解釈が難しいですよね。たとえば、好きな相手と初体験を迎えるとき、不安はあるけどちょっと身を任せてみたい……、始めは気分が乗らなかったけれど、行為後に良かったと思える……とかね。結果的に同意しているパターンも多いのではないでしょうか。しかし、断りたいときの「嫌だ」という気持ちは、積極的に意思表示する必要があると思います。

お悩みエピソード
「振られるのが怖くて、断れなかった」

 学生の頃、彼氏からのセックスの誘いを断ると「俺のことが好きじゃないんだ」と言われました。それからというものの、振られるのが怖くて行為を受け入れることが度々。大人になった今、「性行為を受け入れること=相手への愛情の示し方」ではないと思っているのですが、当時の私はそのことに気づけませんでした。

◇ 春奈先生のおはなし ◇

 大前提として、性行為を断ったからといって振ってくる人は、逆にこちらから振るくらいの気持ちでいてほしい!
 とはいえ、相手が初めての恋人だったりすると「ここで引いたら初恋が終わっちゃう!」くらいの焦りや葛藤で、不安があっても断れない人もいると思います。そうならないために、日頃から言葉で相手への気持ちを伝えるように頑張ってみてほしい。

 セックスで相手の気持ちを確認しようとしてしまう。男女共に経験がある人もいるのではないでしょうか。確かにセックスは、愛情を確認し合う大切な触れ合いだと思います。しかし、それだけで好意を確認してはいけません。素敵なデートやイベント事のような、プラスアルファの楽しい時間であってほしい。

 日本はアイ・ラブ・ユー文化ではないから、日常的にパートナーに「好き!」「大好き!」と言うのは照れくさいかもしれない。でも、もうちょっと言葉での愛情表現を欧米化しても良いんじゃないかな(笑)
 それに尽きると思います。きちんと言葉で伝えていたら、相手も、セックスの誘いを断られたくらいで「好きじゃないんだ」という発想には繫がらないと思います。

お悩みエピソード
「したくないのに、夫から無理やり」

 セックスに乗り気になれなくて夫の誘いを断ると、数日後に「あのときは我慢したんだから」と無理やり迫られることがあります。避妊に協力してくれないこともあります。「夫婦であっても、無理やりするのは犯罪になる」と伝えると、夫は「家を出て行きたいのか」「子どもはどうするのか」。大切にされていない気持ちになります。

◇ 春奈先生のおはなし ◇

 これが本当だとしたら、ひどいな。
 もしかすると、夫婦関係が対等ではないのかもしれません。状況によっては専門機関への相談や、離婚覚悟で話し合う必要もあります。

 力関係が生まれてしまっている夫婦が一定数いるのではないでしょうか。仕事の状況やお給料の差、子どもを盾にされて、言いたいことを言えない人がいると思います。
 別々に暮らす恋人であれば、「もう別れよう」とすぐに思えるかもしれない。でも夫婦には、その後の日常が待っています。相手の機嫌を損ねないように、怒らせて大変な目に遭わないように……、我慢して相手の欲望を受け入れてしまう。

 この方は夫に「無理やりするのはダメだ」と言えています。これは本当にすごいこと。してほしいこと、やめてほしいこと、夫婦間でのセックスの悩みは夫婦で話し合う努力が必要不可欠です。

 一方で、断り方に工夫が必要な場合もあります。「犯罪」という強いワードを聞くと、逆上する人が一部いるのも事実……。残念ですが、そうなると本末転倒です。
 どんな理由でしたくないのか、どういう気持ちになるのか、(場合によっては)したくない気持ちは一時的であること……などを一から丁寧に伝えることが、よりよい関係に繫がるかもしれません。
 体や心の状態はひとりひとり違います。特に体の痛みや妊娠や避妊に対する意識は、男女でどうしても理解が及ばない部分があります。
 もしパートナーとの関係をより良いものにしたい場合、相手の立場に立って言葉を選んでみるのも、お互いの成長に繫がるのではないでしょうか。

< 20代独身女性の聞き手が、春奈先生に質問! >

田中: 結婚や妊娠、出産を経て男女共に性欲が変化していく話はよく聞きます。とはいえ、結婚前にパートナーと結婚後の性生活について話し合わないものなのでしょうか? 性の不一致が離婚の原因になることもありますよね。

春奈先生: 私の感覚的に、全く話し合わずに結婚する人が多い印象かな。でも、結婚前に性的同意含めていろんなことを話し合っておくことが理想的だと思う。

田中: 夫婦になる前にしっかり話し合う。

春奈先生: 海外では、婚前契約書というもので性生活などを含めた結婚後の生活や離婚する際の条件について約束を交わす契約書を活用するカップルもいるらしいよ。面白いよね。ロマンチックではないかもしれないけど、性的同意に通じるものがあると思う。

田中: 嫌がる人もいそうな……。

春奈先生: ノリノリで「やってみようよ!」「セックスレスになるのもさみしいからね!」って言い合えるタイプ同士だとやりやすいかもね。でも、抵抗がある人も多いと思う。いずれにしても、結婚前から大事なことを逃げずに話し合える関係でいることが大切。相手の誠実さを確認するために言ってみるのもありかも?! だって、結婚したら何十年も一緒にいるんだからね。

◇ アンケート結果を紹介 ◇

 事前にアンケートも募集しました。みんなはこの結果、どう思う?
※2月下旬に平泉春奈さんのインスタグラム(@hiraizumiharuna0204)のストーリーズ機能を通して実施。8966人から回答を得ました。

 

アンケート1

◇ 春奈先生のおはなし ◇

 もしかすると、性行為の経験がある人の中で、「同意していない性行為」に近しい経験をしている人が多いのかな?という予想です。最終的には同意したと思っているけど、言葉での確認は行っていなかったり……、こうやって改めて尋ねられると、「当時のあの行為は同意できていたのかな?」と思う人も多いと思います。

 

アンケート2

◇ 春奈先生のおはなし ◇

 雰囲気に流されてしまうのは、あるあるじゃないでしょうか。それに、「自分が相手をそういう気にさせちゃったのかも」「ここで引いたら申し訳ない」という罪悪感を抱えて受け入れるパターンもあると思います。

 「相手になんて言われるかな」と、怖くて断れなかったという人もいるのではないでしょうか。そういう人は、“怖い”と思った理由を考えて欲しい。もしそれが、「相手に嫌われるのが怖いから」だったら。それくらいであなたを嫌う人だとしたら、怖がる必要なんてありません。むしろこっちから願い下げ!くらいの気持ちで大丈夫。

 私がみんなに伝えたいことは「自分を自分で一番愛してあげてほしい」ということ。相手を好きな気持ちの方が、自分のことを好き以上に大きいっていうのは、いびつな関係だと思っています。
 性行為を断っても引いてくれない相手というのは、そもそもあなたのことを本当に好きではないんじゃないかな? まずは自分の事を大切にしてください。

 

アンケート3

◇ 春奈先生のおはなし ◇

 日常的に、誰かの家や部屋に行くというのは身近な出来事だと思います。自分の身を自分で守るためにも、「行く理由」を互いに理解し合うことが大切だと思います。

 家や部屋に誘う側も「自分の家なんだけど、○○の理由で来てほしいから良いかな?」と伝えるのが理想。二人で食事をした帰りに「うちでお茶しない?」「うちで飲み直さない?」という流れで家に行くこともありがちなパターンですが、相手の家に行きたくなかったり不安がある場合は、場所はお店でもいいわけです。

 気をつけないといけないのは、相手との関係性。付き合っていない者同士や、お互いをよく知りもしないで家に着いていくというのは本当に危険。部屋に入って、万が一の事があってから拒絶することもできるけど、怖くて萎縮しちゃったり、相手も豹変するかもしれません。密室でふたりきりになるということは、そういうことが起こりえるかもしれないという意識を持つように努力するというのも、必要です。
 そうならないためにも、少しでも違和感や不安があれば、そういう状況から離れることが大切だと思います。

< 春奈先生から、みんなへ >

― 賢い判断ができる、かっこいい人であれ ―

 大前提として、セックスはお互いの愛情を確認し合う大切な触れ合いであって欲しいと願っています。恋人や夫婦、大好きな人ならなおさら、前向きに性と向き合って欲しい。そんな相手に対しても「セックスしたくない」と思うことがあるからこそ、性的同意という言葉があるわけです。

 そのセックスの意味はなに? なぜその人と一緒にいるの?
 自分のなかでよく考えてみて。

 相手が大切な人だとしたら、お互いの譲れるところと譲れないところをしっかりと言葉にして話し合いましょう。
 好きではない相手の場合は、そもそも人には性欲がありうるということを認識しましょう。そして、万が一の時は怖がらずに言葉で「嫌だ」と伝えましょう。

 性行為を断ったからといって、あなたの価値は下がりません。賢くかっこいい判断ができるようになってほしい。そういう人は同じように素敵なパートナーと出会えると、私は信じています。

 相手に堂々と「NO」を言えるよう、正しい性の知識を身につけていきましょう。


 

平泉春奈

 平泉春奈

 イラストレーター
 愛と美と官能をテーマに、カップルイラストや短編小説を創作。3冊目の著書「私たちは愛なんてものに」(KADOKAWA)を発売。

 


 

次回は5月4日に公開予定です。

(2024年4月6日。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。)

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