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アートリップ

SALT
村岡三郎作(青森市) 

時の経過を表す赤い鉄さび

 高さ235センチの立体は、奥に行くほどすぼまって遠近感を演出している=浜田哲二撮影
高さ235センチの立体は、奥に行くほどすぼまって遠近感を演出している=浜田哲二撮影

 4月中旬、雪を頂いた八甲田山のふもとにある雲谷地域を訪れた。市街地からのバスを降りると、空気が澄んでいる。26万平方メートルの広大な敷地を持つ青森公立大学国際芸術センター青森には、野外作品22点が点在していた。入り口で存在感を放つのは、弓形のコンクリート壁面にくさびのように突き刺さる、鉄板でできた長さ13メートルの立体。表面には赤い鉄さびが浮き、雲のようにも抽象画のようにも見える。

 本作は、彫刻家・村岡三郎(1928~2013)が制作、同センター開館1周年の02年に設置された。内部には岩塩が封じ込められ、先端部のアクリル板を通して内側をのぞき見ることができる。設置から15年以上が経過し、塩は溶け、鉄の一部は酸化し腐食している。それは、作品が時を経て自然と共存してきた証しのようだ。村岡は、「塩という物質を通して、改めて自然という根源に触れた」と話している。同センターの設立を当時の青森市長に提案した東京大特任教授の西野嘉章さん(67)も「塩と鉄が戦い、滅びていく千年単位の時間の流れを表現した作品」と評価する。

 一方、地元で暮らしながら作品を見つめる学芸員の金子由紀子さん(40)は、そこに自分たちの姿を見る。「山間部では4月まで雪に覆われる青森。人間は厳しい自然に寄り添って生きている。この作品はそんな姿を伝えているようです」

(石井 久美子)

国際芸術センター青森

 2001年12月開館。アーティスト・イン・レジデンスを中心に活動。建物の設計は安藤忠雄。宿泊棟や創作棟、展示棟も備える。

《アクセス》 青森駅からバスで約40分。


ぶらり発見

 本作からバスで5分、パンとコーヒーの店 ねこのて(問い合わせは017・728・0150)では、「サンドイッチハーフセット カツ」(写真、700円)がおすすめ。手作りのパンに揚げたてのカツを挟んだ。いれたてのコーヒーも味わえる。午前11時~午後5時。5月1~5日、水と木(不定期)休み。

  車で15分の八甲田ロープウェー(問い合わせは738・0343)は、山麓駅から山頂公園駅までの約2.5キロを約10分でつなぐ。大型連休までは八甲田山の雪景色が、初夏には新緑が楽しめる。往復乗車券2000円。

パンとコーヒーの店 ねこのて

(2019年4月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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