読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

いけばな資料館

仏への供花が源流 立花を大成

いけばな資料館
「立花之次第九拾三瓶有(池坊専好立花図)」第六図 作者不明 江戸時代前期
縦43.5×横31.3センチ 重要文化財
いけばな資料館 いけばな資料館

 いけばな発祥の地とされる、京都市中心部の六角堂(紫雲山頂法寺)。聖徳太子に仕えた小野妹子に始まり歴代の住職が朝夕仏前に花を供えたと伝わり、住職は代々「池坊」と名乗り、華道の家元でもあります。六角堂に隣接する当館では、いけばなに関する伝書など千点以上を収蔵しています。

 「立花之次第九拾三瓶有(りっ・か・の・し・だい・きゅう・じゅう・さん・ぺい・あり)(池坊専好立花図)」第六図は、江戸時代初期の家元、池坊専好(二代、1575年~1658年)が1629年正月に宮中で立てた作品を記録した図です。全体は折本(おり・ほん)となっており、この図を含め専好の作品91点が収められています。

 室町時代、仏前供花(く・げ)を源流として座敷の床の間を飾る「立て花」が誕生、さらに「立花」として発展しました。専好は「立花の名人」といわれ、当時の後水尾天皇に気に入られました。天皇自らも専好に学び、宮中でたびたび立花会(りっ・か・え)が催されました。この折本の中にも内裏や御所で立てた作品が多く見られます。

 立花は木を山、草を水の象徴として一瓶の中に自然の情景を再構成します。本図で中央に描かれた背の高いマツは、山を表す素材として大変好まれました。また立花ではそれぞれ役割を持った「役枝」という決まりがあり、本図では花材名も書き込まれています。現在のような剣山は当時なく、花瓶にきつく束ねたワラを入れ、花材を挿し入れました。

 「花伝大成集(か・でん・たい・せい・しゅう)」は元禄期の池坊門弟、藤掛似水(ふじ・かけ・じ・すい)が記した、池坊のいけばなをまとめた書物です。江戸時代中期には立花と比べて簡略化され、1~3種類の花材で構成される「生花(しょう・か)」が誕生しますが、本書はそれより数十年前、いけばながより身近になっていく過渡期に書かれました。「真」「行」「草」という、書道の楷書・行書・草書にあたるスタイルが記されています。

(聞き手・田中沙織)


 《いけばな資料館》 京都市中京区六角通東洞院西入堂之前町(問い合わせは075・221・2879)。午前9時~午後4時。春秋のいけばな展開催時を除き予約制。無料。(土)(日)(祝)、年末年始(12月29日~1月8日)、夏季休業期間、展示替え期間休み。

 いけばな資料館 公式サイト
 https://www.ikenobo.jp/rokkakudo/highlight/ikebana.html

ほそかわ・たけとし

池坊中央研究所主任研究員・細川武稔さん

 ほそかわ・たけとし 1973年生まれ、2010年から現職。専門は室町時代の歴史学。近著に「1日5分 いけばなの歴史」(淡交社)。

(2023年12月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • カメイ美術館 当館は仙台市に本社をおく商社カメイの第3代社長を務めた亀井文蔵(1924~2011)が半世紀以上かけて収集したチョウをコレクションの柱の一つとし、約4千種、1万4千匹の標本を展示しています。

  • シルク博物館 幕末以来長く横浜港の主要輸出品だった生糸(絹)をテーマに約7千点を所蔵

  • 平山郁夫美術館 平山郁夫(1930~2009)の「アンコールワットの月」は、好んで用いた群青ほぼ一色でカンボジアの遺跡を描いた作品です。

  • 北海道立北方民族博物館 北海道網走市にある当館は、アイヌ民族を含め北半球の寒帯、亜寒帯気候の地域に暮らす民族の衣食住や生業(なり・わい)に関する資料を約900点展示しています。

新着コラム