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アートリップ

宍道湖うさぎ 
藪内佐斗司作(島根県松江市)

人と自然のご縁を結ぶ

写真は4体目以降。連続した動きで躍動感を表現=滝沢美穂子撮影
写真は4体目以降。連続した動きで躍動感を表現=滝沢美穂子撮影
写真は4体目以降。連続した動きで躍動感を表現=滝沢美穂子撮影 関西から縁結びの旅で訪れた2人。2体目と記念撮影=滝沢美穂子撮影

 土曜日の午後。さざ波が揺れる宍道湖(しんじこ)のほとりにある岸公園では、若い女性たちがある彫刻作品を眺めたり、写真を撮ったりしていた。視線の先にあるのは、シジミの貝殻が供えられた高さ36.5センチのうさぎ。湖に向かって弧を描くように12体が飛び跳ねるブロンズ作品「宍道湖うさぎ」の先頭から2体目だ。

 なでられ、磨かれたようにつるつるになっている頭と胴体。いつからか、出雲大社のある西の方角を向いて、このうさぎをやさしくなでると、幸せがやってくるという都市伝説がささやかれるようになった。

 この作品は、隣接する島根県立美術館の開館に合わせて1999年に設置された。作者は彫刻家の籔内佐斗司(さとし)(63)。当時の学芸員から依頼を受け、現場を見て配置や数を決めたという。全国に多数の野外彫刻がある籔内さんは、「こんなに愛されるとは思ってもみなかった。因幡の白うさぎのようにやさしくさすってもらい、作品に命が吹き込まれた」と話す。

 同館から眺めた宍道湖の風景は「日本の夕陽百選」にも選ばれた。秋はとくに夕日が映える。さらに旧暦10月の島根県は出雲大社に八百万(やおよろず)の神様が集まる「神在月(かみありづき)」。この地を訪れるだけでも御利益があるという。訪れる人と宍道湖の自然、アートとのご縁を、うさぎはやさしく結んでいる。

(石井久美子)

 岸公園

 島根県立美術館(TEL0852・55・4700)の西側、宍道湖沿いに広がる2.8ヘクタールの公園。菊竹清訓(きよのり)設計の美術館から水辺まで、なだらかな景観を作り出す。湖畔には風や光をテーマに、澄川喜一、建畠覚造らの抽象彫刻5点が点在する。美術館の入館者500万人達成を記念し、10月15日(土)午後3時、籔内さんの講演会を同館ホールで催す。要予約

 《作品へのアクセス》 JR松江駅から徒歩約15分、バスで約6分。


ぶらり発見

松江城

 昨年国宝に指定された松江城の周辺では、10月31日までライトアップイベント松江水燈路を開催。約1500個のあんどんが設置される。「堀川遊覧船夜間運航」に乗れば、船上から風情あるあんどんの明かりを楽しめる。(土)(日)のみ。所要時間約20分(片道、大人510円)。問い合わせは松江観光協会(0852・27・5843)。

 茶人として名高い松江藩主・松平不昧(ふまい)公にちなみ、松江には和菓子の名店が多い。向月庵(TEL26・7393)では、常時8種類の生菓子をそろえる。10月は栗きんとんがおすすめ。ようかん「瑞雲」=写真=は、宍道湖上の夜明けの雲を表現。

(2016年10月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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