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アートリップ

時の知層 
土屋公雄作(大阪府和泉市)

街の象徴、市民の手で

雑木林が茂る丘陵地だった場所は一変した=滝沢美穂子撮影
雑木林が茂る丘陵地だった場所は一変した=滝沢美穂子撮影
雑木林が茂る丘陵地だった場所は一変した=滝沢美穂子撮影 ホール外壁にある山口晃作「和泉市名所圖畫(ずえ) 池上曽根遺跡」=滝沢美穂子撮影

 大阪府南部のベッドタウン、和泉市。図書館などが入る複合施設「和泉シティプラザ」の中庭に、ガラスの塔がそびえ立つ。彫刻家土屋公雄さん(61)による「時の知層」だ。

 2003年、和泉中央駅前に建設された同プラザのアート計画の一つとして制作した。「急激に開発された駅前のニュータウンと旧市街とは結びつきが弱い。希薄になりがちなこの街のアイデンティティーを作りたかった」と、土屋さんは言う。

 キーワードは「市民参加」だった。高さ10メートルの塔の中には、市民や学生たちが市内で採取した土、地元企業から集めたIC基板やガラスのリサイクルチップ材、幼稚園・保育園児による手作り粘土などを積み重ね、それぞれ「過去、現在、未来の層」を表した。80種以上の素材が、加熱処理や粉砕作業を経て、鮮やかなグラデーションをなしている。

 制作もすべて市民スタッフが関わった。「あなたにとって和泉はどんな街ですか?」。完成まで2年間、土屋さんは参加者に問い続けた。20回のワークショップを重ねるうちに、新しい住民と古くからの住民との間に対話が生まれたという。

 「開放感がありますね。夜は図書館の明かりに浮かび上がってきれいですよ」と、図書館に週1回通う70代の男性。人々の日常に「知層」はすっかり溶け込んでいるようだ。

(曽根牧子)

 和泉シティプラザアートワーク

 図書館や文化ホール、和泉市分庁舎などが入る大型公共施設「和泉シティプラザ」に採り入れたアートプロジェクト。地下2階、地上5階のガラス張り建築の中に、画家・山口晃が市内7カ所を描いた壁画のほか、英国の彫刻家アントニー・ゴームリー、現代美術家の宮島達男らの作品が点在し、さながら現代美術館のようだ。

 《アクセス》 泉北高速鉄道和泉中央駅から徒歩3分。


ぶらり発見

佐竹ガラス

 「時の知層」に使われたガラスは和泉市の特産品。JR信太山駅から徒歩10分、1927(昭和2)年創業の佐竹ガラス(TEL0725・41・0146)では、ガラス細工の原料となる色ガラス棒を国内で唯一戦前から作り続けている。伝統の職人技を見学できる((火)(水)のみ)ほか、とんぼ玉作り体験(1500円)も人気。要予約

 20分ほど歩くと、山口晃が描いた池上曽根遺跡がある。和泉市と泉大津市にまたがる大規模な弥生時代の環濠(かんごう)集落跡で、約2千年前の竪穴住居や、「いずみの高殿」と名付けられた高床式建物が復元されている。

(2016年12月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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