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アートリップ

Mother 風の門 
原田ミドー作(北海道江別市)

れんがへの思い積みあげ

門の高さは約2.8メートル=青木美伸撮影
門の高さは約2.8メートル=青木美伸撮影
門の高さは約2.8メートル=青木美伸撮影 市セラミックアートセンター敷地内にある、ガウディ研究家・工学博士の田中裕也の作品「すずらんボベダ」=青木美伸撮影

 春の匂いを含んだ風がれんがの門を通り抜けていく。江別市セラミックアートセンターの裏庭に「Mother 風の門」は立つ。同市出身の彫刻家・芸術家、原田ミドーさん(53)が2000年に制作した。使われているのは、昭和初期に作られた廃れんが。風化し、草が生え、遺跡のようにも見える。

 「江別のれんが」で知られる同市。1891年かられんがの生産が始まり、最盛期の1958年には15社前後の工場があったが、次第に需要が減り、現在は3社だけだ。

 生家や牛舎など、れんがの建物が次々に取り壊されていくのを見て、原田さんは思い出や歴史を形にして残したいと思うようになった。制作のきっかけは、99年に見た米アリゾナ州のグランドキャニオン。「太陽に焼かれた土と、炎に焼かれてできる故郷のれんがが重なった。自然の造形や母なる大地の力にインスピレーションを得たんです」

 れんがや、やきもので街の活性化を目指す市の協力もあり、廃業した窯業(ようぎょう)工場「旧ヒダ工場」で作業を始めた。積んだれんがをセメントで固め、電動グラインダーで削る。制作には9カ月を費やした。同センター学芸員の兼平一志さん(46)は語る。「この門は、江別のれんがを残していきたいという、みんなの思いも積みあげられたシンボルです」

(秦れんな)

 江別市セラミックアートセンター

 道内のやきものについて学び、体験できる施設として1994年に開館。れんがの歴史、背景、生産工程などを資料や模型、映像で紹介する「れんが資料展示室」、窯業と陶芸の発展に寄与した小森忍の記念室、道内作家の作品などを展示した「北のやきもの展示室」(いずれも有料)などがある。陶芸体験教室やレンタル工房・窯も。野幌原始林に隣接し、散策も楽しめる。5月は桜の花が見頃。

 《アクセス》野幌駅から車で10分。


ぶらり発見

煉化もち

 野幌駅から徒歩7分、明治34年創業の煉化(れんが)もち本舗(TEL011・385・9689)では、江別のれんがをかたどった「煉化もち」(写真、10個入り、648円)を販売。道内産のもち米と小豆を使用し、昔ながらの製法で作る。やわらかいもちにほんのり甘いこしあんがやさしい味。焼いてもおいしい。

 市の近代産業遺産「旧ヒダ工場」を改修し、昨年3月にオープンした商業施設EBRI(エブリ、TEL398・9570)。れんが造りの建物の中にカフェや市場などが入る。午前10時~午後10時(店舗により異なる)。

(2017年5月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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