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アートリップ

未来都市銀河地球鉄道 
山本長実(おさみ)作(岩手県花巻市)

「賢治の街」の巨大壁画

SLの軌跡を表す曲線は、釣りざおを使って描いた(長時間露光で撮影)=伊ケ崎忍撮影
SLの軌跡を表す曲線は、釣りざおを使って描いた(長時間露光で撮影)=伊ケ崎忍撮影
SLの軌跡を表す曲線は、釣りざおを使って描いた(長時間露光で撮影)=伊ケ崎忍撮影 新花巻駅には賢治の「星めぐりの歌」をモチーフにしたオブジェがある=伊ケ崎忍撮影

 闇の中に、青く輝く「銀河の世界」が広がる。7月初旬の午後8時ごろ。岩手県・花巻駅前の坂を下ると、道路脇にその壁画はあった。高さ10メートル、幅80メートルの巨大な壁の中央には直径7メートルの地球。2台の蒸気機関車(SL)がダイナミックに走る。

 新設の道路脇にできた擁壁の圧迫感を軽減したいという花巻市の要望で、空間アーティストの山本長実さん(57)が1993年に描いた。ブラックライトに反応して光る特殊な塗料を使い、昼間は白い輪郭線が見えるだけ。日没後、壁画正面に立つ25灯のブラックライトが点灯すると、色鮮やかな壁画が現れる。

 制作は秋の夜間に行われた。「吹きさらしの中で3週間。巨大なカンバスに向かう心境でした」と山本さんは振り返る。童話作家・宮沢賢治生誕の街にちなみ、作品や生き方から感じた「宇宙」「未来」「都市」のイメージを表現した。完成後は「賢治の街」を象徴するスポットの一つに。一昨年には全面的に塗り替えられ、設置から20年以上経った今も、全国から観光客が訪れる。

 壁画の目の前に住む角館(かくだて)淳子さんは、この絵を毎日見ながら暮らせたらと、5年前に家族で引っ越してきた。2階の書斎には、壁画に合わせて取り付けた小さな窓。「夜、仕事をしながら見るたびに心が洗われます。市民の中では私が一番お世話になっていますね」

(渡辺鮎美)

 宮沢賢治生誕の地

 花巻市は詩人で童話作家の宮沢賢治(1896~1933)生誕の地。賢治が設立した私塾「羅須(らす)地人協会」の建物や、「イギリス海岸」と名付けた北上川のほとり、資料が展示された宮沢賢治記念館など、ゆかりの場所や施設を訪ねる人も多い。10月8日までの(金)(土)(日)、宮沢賢治童話村では「童話村の森ライトアップ」を開催。問い合わせは市賢治まちづくり課(0198・24・2111)。

 《作品へのアクセス》JR花巻駅から徒歩5分。ライトの点灯は日没~午後10時。


ぶらり発見

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 岩手名物といえば、わんこそば。市内で大正期から営業する老舗そば店やぶ屋(TEL0198・24・1011)でも食べられる(写真、3240円から)。宮沢賢治は、この店の天ぷらそばとサイダーを好んだとか。

 花巻駅から車で約30分の鉛温泉 藤三旅館(TEL25・2311)にある「白猿の湯」は、深さ125センチの岩風呂。立ったまま入浴することで適度に湯圧がかかり、全身の血行を促進するという。日帰り入浴も可(700円、午前7時~午後9時)。

(2017年7月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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