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アートリップ

くろがね号のゆくえⅡ 
長谷川善一作(埼玉県川口市)

鋳鉄への愛着込めて

右がクジラの尾びれをイメージした後部。傾斜のついた台座のため、飛び立ちそうに見える=横関一浩撮影
右がクジラの尾びれをイメージした後部。傾斜のついた台座のため、飛び立ちそうに見える=横関一浩撮影
右がクジラの尾びれをイメージした後部。傾斜のついた台座のため、飛び立ちそうに見える=横関一浩撮影 園内にあるオレグ・クドリャシォフ作「冬の祭典」=横関一浩撮影

 公園内の生い茂る緑の葉を背にした作品は、前から見ると今にも飛び立ちそうな飛行機に見えた。でも横から見ると、クジラのようにも鳥のようにも。

 作者は、彫刻家の長谷川善一さん(58)。川口市から、リリアパーク内に置く作品の依頼を受けて、21年前に制作した。鋳鉄製で長さは約6メートル、重量は5トン。モチーフは架空の乗り物だ。個展のために作った「くろがね号のゆくえⅠ」より一回り大きくした。溶けた鉄が固まる過程でできた「しわ」を残して、墨流しのような表情に。また、パーツは子どもが興味を持てるよう、車輪、クジラの尾びれ、芽の形の翼にした。

 長谷川さんは、祖父の代から続く鋳物会社の社長。鋳鉄への愛着は格別だ。作品作りも「まずは鋳物で何かやりたいというのがある」と話す。

 川口は鋳物業が盛んだった。吉永小百合主演の映画「キューポラのある街」(1962年)の舞台にもなり、70年代前半は生産量がピークに達した。夕方になると、工場からあがる煙や火の粉で、「街はまるで火事が起きたかのようでした」。

 その後、取引相手の工場の海外移転などで衰えて、今その風景はない。しかし、「川口は鋳物の街。鋳物屋として、その魅力に気づいて欲しい」と長谷川さん。6月には補修をし、あえて鉄さびの風合いが残るように塗料を施した。

(土田ゆかり)

 リリアパーク

 JR川口駅西口からすぐの公園で、総面積約3万平方メートル。園内には、本作のほか、彫刻家の朝倉文夫の娘・響子や、市出身の作家らによる彫刻作品が計14点展示されている。イベント広場、コミュニティー広場、遊びの広場などがあり、遊具や、水遊びができる親水施設も。近くの川口総合文化センター・リリアには、公演にあわせてステージの大きさを変えられるメインホールや、パイプオルガンを設置した音楽ホールなどがある。無料演奏会も実施。


ぶらり発見

ベーゴマ

 川口市内の日三鋳造所(TEL048・222・4430)は、同市内の鋳物工場に委託し、ベーゴマを製造している。絵柄は、アルファベット(写真、ヒモ・説明書付き、参考価格378円)、恐竜、昆虫など。川口駅前の複合施設「キュポ・ラ」などで販売し、取り寄せも可。

 川口北東部の安行は、江戸時代から植木の生産地。駅からバスで40分の川口緑化センター・樹里安(TEL296・4021)では、植木750種、花100種を年間で販売。サクラ、山椒(さんしょう)、ユズ味のオリジナルアイス(各270円)も人気。

(2017年8月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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