美博ノート

三代歌川豊国「両国夕景一ツ目千金」

天然黒ぐろ 鉄と炭素のものがたり(INAXライブミュージアム)

三代歌川豊国「両国夕景一ツ目千金」

部分、1855年

 夕闇を背に立つ女と顔をしかめる男。隅田川沿いの料理屋を描いた浮世絵だ。1枚の絵の中に濃淡のある黒が存在する。

 煤(すす)を膠(にわか)で練り固めて作られる墨には、松の煤「松煙墨(しょうえんぼく)」と植物油の煤「油煙墨(ゆえんぼく)」の2種がある。松煙墨は粒子が粗くふぞろいで、青みを帯びた透明感のある黒になる。本作では外の暗闇に松煙墨を使っているようだ。一方、油煙墨は、粒子が細かくそろっていて、赤みのあるはっきりした黒になる。男の着物の濃い黒は、藍を刷った上からこの油煙墨を使ったと思われる。

 煤の種類や膠の量による墨の違いに加え、墨と紙、水質との相性、濃淡、ぼかし、にじみなどの技法で、無限の表現方法を生む。学芸員の水野慶子さんは「水墨画などを鑑賞する時にそこに注目すると、より楽しめます」と話す。

(2018年1月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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