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私の描くグッとムービー

司修さん(画家、装幀家)
「二十四時間の情事」(1959年)

戦争の傷を抱える2人の恋

司修さん(画家、装幀家) 「二十四時間の情事」(1959年)

 リアルに核戦争の恐怖があった時代の忘れられない映画です。公開時に映画館で見ましたし、その後何度も見ています。当時は世界各地で核実験が繰り返されていて、僕も「恐怖」をテーマに絵を描いていました。

 物語は広島に映画の撮影に来たフランス人の女優が、日本人男性と出会い、つかの間の恋に落ちるもの。女性はナチス占領下のフランスでドイツ兵と恋愛し、地下室に幽閉された苦しみを抱えていて、日本人男性は家族全員が被爆しています。脚本は作家のマルグリット・デュラス。2人の会話はデュラスの小説や詩を朗読しているかのようです。

 「私は広島のすべてを見たわ」と言うフランス人女性に、日本人男性は「君は何も見ていない」と繰り返します。それは監督のアラン・レネが日本人を含めた世界の人に向けて、原爆の悲惨さを「あなたたちは何も知らない」と訴えているんだと思うんですね。楽しい映画ではないですが、知ることのためにも大事な地図を示していると思います。

 僕は9歳の時に前橋で空襲に遭いました。空襲で爆弾を落とされた中でようやく命が助かった、という思いは消えないんですよ。もうすぐ戦争が終わった8月になるという意識もあって、この映画を選びました。絵は女性の「悲しみ」を描いています。左はフランスでの戦争体験、右は映画で看護師役に扮した彼女の目に原爆ドームが映り、2人はキスをしています。

聞き手・清水真穂実

 

  監督=アラン・レネ
  脚本=マルグリット・デュラス
  製作=日・仏
  出演=岡田英次、エマニュエル・リバほか
つかさ・おさむ
 1936年生まれ。エッセー「本の魔法」で大佛次郎賞。9月5日~17日、京都市・寺町通のG・ヒルゲ-トで個展「水上勉曼荼羅(まんだら)展」。
(2017年6月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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