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私の描くグッとムービー

阿部知暁さん(ゴリラ画家)
「キング・コング」(1933年)

普遍的で切ない 愛の物語

阿部知暁さん(ゴリラ画家) 「キング・コング」(1933年)

 ゴリラを愛する「ゴリラ業界」の人たちにとっては、いや~な映画なんですよ。ゴリラは馬鹿で獰猛(どうもう)で、女性の色香に迷ってボコボコ胸をたたく存在、そんな誤解を植え付けた映画とされている。

 でも私は、心ひそかにコングを憎めない。美しいヒロインに恋して、いとしい人を守ろうと愚かなことを繰り返す。「美女と野獣」のように、普遍的で切ない愛の物語だと思っています。

 怪獣映画を撮るために、スマトラ付近の孤島に出向いた一行が、巨大なゴリラ、キング・コングに出会うという物語です。大学生の頃、映画館でリバイバル上映されているのを見たのが最初かな。

 金もうけのためニューヨークに連れて来られたコングが、エンパイアステートビルに登るシーンが印象的ですね。ヒロインを安全な場所にポッと置くコングの優しさに、キュンとします。私もニューヨークに行った際、ドキドキしながらエンパイアステートビルに登りました。

 ゴリラが胸をたたくときって、実はグーじゃなくてパーなんです。本物のゴリラは、家族思いの穏やかな生き物。闘いの回避やコミュニケーションのためにドラミングすることも多いんですよ。

 何度もリメイクされているので、やっぱり何かしら人の心をつかむ存在なんでしょうね。今年上映された最新版では、愚かな人間に対してコングがすごく賢く、神々しく描かれている。ゴリラが理解されつつあるんだな、とうれしくなりました。

聞き手・中村茉莉花

 

  監督=メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シューザック
  製作=米
  出演=フェイ・レイ、ブルース・キャボットほか
あべ・ちさと
 1957年生まれ。世界各地のジャングルや動物園を巡り、ゴリラを描く。著書に「ゴリラを訪ねて三千里」「ゴリラを描きたくて」など。
(2017年7月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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