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私の描くグッとムービー

ときめきを、洋服に
「JENNE」宇佐見結花さん 仕事を語る

 突然ですが、担当記者である私の洋服は約8割がアパレルブランド「JENNE」の洋服です。そんな私が、オープンしてわずか4年でパリ・ファッションウィークに参加した「JENNE」デザイナーの宇佐見結花さんに、洋服への情熱やパリ・ファッションウィークの裏話、そしてSNSへの向き合い方などについてお話を聞きました。

(聞き手・斉藤梨佳)

※宇佐見結花さんは3月22日(金)朝日新聞夕刊「私の描くグッとムービー」に登場しました。

 

Profile

宇佐見結花(うさみ・ゆか)

1987年長野県生まれ。マタニティブランド「CHOCOA」デザイナーを経て2019年に「JENNE」をオープン。ジェンヌ・インターナショナル株式会社の取締役であり、デザイナー。現在は表参道、日本橋(1年間限定)、京都、名古屋に店舗あり。

2023年にパリ・ファッションウィークに参加。2025年に開催されるミスヨーロッパコンチネンタルの公式デザイナーに就任し、ファイナリストのドレスデザインを担当することも決まっている。プライベートでは3児の母。

©ジェンヌ・インターナショナル株式会社

 

持ち味は、「生地の無駄遣い」

 

――宇佐見さんのデザインの持ち味は何でしょうか。

 

 「生地の無駄遣い」と呼んでいるのですが、生地を使いたいだけ使います。

 最初はマタニティブランドをやっていたのですが、4年前のパリ旅行で目にしたマダムたちの自由なファッションに衝撃を受けて、帰国後すぐに「JENNE」をオープンしました。当時、アパレル関係の方に話を聞いていると、服を作る時に「生地量と価格はこのくらいに抑えて商品化してください」からスタートすることが多いと聞きました。ただそれだと、どうしても物足りなく感じてしまったり、少しチープに見えてしまったりする。私が当時の日本で流行していた洋服を、あまり魅力的に感じられなかったのはそれが原因だったのかな、と感じました。

 私は洋服の勉強をしてきたわけではないので、洋服作りの過程を知らずにデザインを描いて「生地をたっぷり使った、こういう洋服を作りたいんです!」というところからスタートし、お金の話は後からでした。作ってくださった方に「こんなに生地を使うブランドはないですよ、価格は大丈夫ですか?」と言われてしまうくらい。でもそれが今でも変わらず、「JENNE」の持ち味なのかなと思います。

 

「今時誰が着るんですか?」と言われても

 

―やはりフィットアンドフレア(※1)も「JENNE」の特徴でしょうか。

 

 そうですね。私は洋服について専門的に学んでスタートしたわけではないので、初めは外に制作を依頼するとすっごく馬鹿にされました。ブランドを始めた当時はビッグシルエット(※2)が流行っていたから、フィットアンドフレアのワンピースってあまり世の中になくて。売れる物しか作りたくないというやり方をするところが多かったです。

「こういうフィットアンドフレアの洋服を作りたいんです」とデザイン画を渡したら、

「今時誰が着るんですか?こんなドレス系、流行っていませんよ」と言われて、なにこの失礼なやつ!!って思ったこともあります。でもかわいいと思うから作ってみてほしい!と思って、作りました。

それが今、「JENNE」の主力商品になっている、「オードリールックワンピース」です。

 

※1 上半身は体に沿うようにぴったりとし、下に向かうに従ってボリュームが出るシルエット。

※2 大きめにゆったりと作られた服

 

©ジェンヌ・インターナショナル株式会社
 苦労の末に作り上げたオードリールックワンピース

 

子供服、お花、魚・・デザインの元になる意外なもの

 

――デザインをする時にイマジネーションの元になるものはありますか?

 

 私は昔からお洋服は大好きでしたが、服飾の学校に通っていたわけではないので、色々なものを見ないといけないというのは常に意識しています。子供服だったり、色々なジャンルのものを見ています。バーっと見ていった時に「わっ!」って心がときめいたもの。

 お花を見る時もあれば、魚を見ている時もあります。目がとまった時に「なんでワクワクしたんだろう」と考えます。お花だったら花びらが重なったところとか、最近だとイソギンチャクの尾びれのピロピロ、っていうのがすごくきれいだなと思って、こんな感じの洋服を作りたいと伝えることもあります。

 

ファーストサンプルはただの「たたき台」

 

――洋服を作る上で、理想と現実の間で板挟みになることはありますか?

 

 どの洋服も板挟みになっていると思います。

 例えばファーストサンプルがあがってきて、他の洋服屋さんだとそのまま商品化することがとても多いです。でも私は、ファーストサンプルはただのたたき台だと思っていて、そこからいかに良くできるかを考えるのが「JENNE」の魅力だと思っています。

 でもそれを挟むことで従業員の仕事量はすごく増えるんですよ。もう1回作り直さなくてはいけないし、そこから生地を変えることもしょっちゅうありますし。

 初めは気を遣って、気になるところがあるのに「まあいいか」と直さなかった商品もあったのですが、そうするとやっぱり売れないんですよ。お客様にもそれが伝わってしまって。気が弱いから「まあいっか」と言いたくなるのですが、一瞬の気の弱さのせいで、後々みんなが苦しむことになるのなら、勇気を出さないといけないと思ったんです。そのターンの多さを抑えれば価格ももっと安くできるのですが、その手間を省いて喜んでいただける洋服が作れるかといったら、そんなことはないと思います。

 

パリ・ファッションウィークの舞台裏

 

――昨年、パリ・ファッションウィークに参加をされていましたが、ランウェイを見ていた時はどのような気持ちでしたか?

 

 あの時は、気付いたらショーが始まっていたという感じで、もうバッタバタでした。

 モデルさんたちとの関係性も難しくて、小物を差し替えようとしたら、「もう私のものだからこれは渡さない!」と言われたり、フィッティングの時に靴を履いてもらって、「サイズ大丈夫?」と聞くと「大丈夫!」と答えていたのに、ショーが始まったら「大きすぎて歩けない」と言っていたりして。サイズが合わないとモデルさんは交代になってしまうからギリギリまで言わなかったんですね。急いでお直しをしていたら、「待って!もう始まってる!」という感じでした。

 始まる前は、感動して裏で見るのだろうなと想像していたのですが、実際はすごくバタバタしていましたね。

 

――最後にステージに出てきて、見ている方々にあいさつをした時はどのような気持ちでしたか?

 

 現実ではないみたいでした。出た時に皆様が拍手をしながらこちらを見てくださっていたのですが、その視線がすごく優しくて、温かい空気が流れているなというのを感じました。緊張はしていたのですが、「すごく良い空気だな」と思いながら歩いていました。

 

©ジェンヌ・インターナショナル株式会社


パリ・ファッションウィークの様子。記事の後半で、さらにお写真をご覧いただけます。  

 

 

本当は気が弱くて自信がない

 

――ご自身のことを気が弱く自信がないとおっしゃっていましたね。それでもブランドの設立やパリ・ファッションウィークへの参加など、チャレンジを続けられる理由は何でしょう。

 

 昔から本当に気が弱いけれど、新しいことをやるのはすごく好きでした。負けず嫌いの部分もあって、気の弱さと相反しているように感じるのですが、「自分に負けたくないから、見返してやる」という気持ちで前に進んでいっているような気がします。

 落ち込む時は本当にどん底まで落ち込みます。でも数日落ち込んだら「ダメダメダメ」と奮い立って戻る、その繰り返しです。

 

「心の中は分からない」常に孤独

 

――デザイナーだからこそ孤独を感じることはありますか?

 

 常に孤独だと思ってやっています。仲間が増えてはいるけれど、スタッフは私が作りたいものを一緒に形にしてくれているので、「心の中は分からないな」と思う部分は今でもあります。みんながすごく好きで作ってくれているのは分かるのですが、もし販売がスタートして売れなかったら全部自分の責任だと思ってしまうので、心の中では「この部分はもっとこうした方が良いと思っているのかな」と思ったりもして、常に孤独を感じながら作っています。

 

――その孤独にはどう折り合いをつけているのですか?

 

 本当に最近克服できてきたかな、というレベルですが、販売がスタートしてお客様がインスタグラムなどで喜びの声を届けてくださった時に、「間違えていなかったのだな」と思えます。それと同時に「一緒に働くスタッフもこの言葉に救われただろうな」と思います。

 

傷つくことも多いSNSとの付き合い方

 

――その一方で、インスタグラムの使い方で悩まれている時期もありましたね。

 

 どんな時も自分のできる範囲の一生懸命はやっているつもりなのですが、SNSだと心が折れる言葉がポン、ってきたりする。「あ、そうじゃないんだけどな」とすごく傷付くこともあって。でもそういう意見もあるし、そう感じる方もいらっしゃるんだよね、と自分の中で消化をして、直さなくてはいけないところは直します。一生懸命やっていたのが伝わらなかっただけだから、今度は伝わるように表現しなくてはいけないのだな、と日々葛藤しながらやっています。 

 インスタグラムってやっぱりほんの一部で、私の生活は本当に、出社して着替えて仕事をして、決して派手な生活ではありません。でも泥臭い部分だけを見せていても楽しくはなくて。

 「JENNE」のインスタグラムを見てくださる方は洋服が好きだったり、きれいなものが好きだったりっていう方が多いので、そういう世界観を共有したいという気持ちがあるんですよ。とはいえその部分しか見ていない方からは、やっぱり色々な意見がきます。でも共感を得やすいような、「毎日ごはんを作っています」、「主婦をしています」、「納豆ご飯を食べています」そういうことばかり載せても、それって「JENNE」ではなくなってしまう。そのバランスがすごく難しいと思っています。

 でも、最近は分かってくださる方が分かってくださればいいのかなって、そう思ってやっています。

 

――傷つくメッセージを送る方は色々な方に送りそうですよね。

 

 そう思ってやっていかないと、本当に今の時代苦しくなってくると思います。何を投稿してよいか分からなくなってしまい、少し投稿を控えた時期もあったんです。でもやっぱり、お客様に発信していかないと「JENNE」について伝えていくことができなくなってしまうので、その辺はもう少し強くならないと、と思っています。

 

★パリ・ファッションウィークのランウェイの様子(©ジェンヌ・インターナショナル株式会社)

 

 
 
 
 
 
 
 
 

取材後記

  宇佐見さんはアパレルブランド「JENNE」のデザイナー兼モデルとしても活躍し、ブランドを始めてからわずか4年でパリ・ファッションウィークへの参加を果たすなど、華々しく力強い女性という印象を持たれる方が多いと思います。それももちろん間違っていないと思いますが、実は落ち込みやすくナイーブな面も持ち合わせていて、その人間らしさこそが彼女の本当の魅力ではないかと感じました。

 これほどの実績を積んだ今でも、洋服への情熱を忘れず、優しいが故の自身の繊細さにも決して負けまいとする彼女の姿に、人として共感を覚えました。キラキラしているのに、キラキラしているだけではない。そういうところです。 

  元々通販専門店だった「JENNE」。携帯の画面と向き合い、洋服を選ぶ時間は至福の時でした。しばらくすると表参道に初めての店舗ができると知り、台風の中、一番最初のお客さんになりました。

 この企画のオファーをさせていただいた時、宇佐見さんはフランスでの展示会を控え、とても忙しい時期でした。しかし、返信にはこう書かれていました。「表参道オープン日、台風と重なってしまい、あの日の私はお客様が来て下さるのか不安な気持ちでいっぱいでございました。台風の中お一人目のお客様として、齊藤様がご来店下さった感激を今でも鮮明に覚えております。今回のお話、有難く受けさせていただきたく思います」。

 素敵な洋服を作る人が、素敵な人でよかった、と思うのです。

 このインタビューが、洋服が大好きな人、そして優しくもあと一歩踏み出せないでいる誰かに届くことを願って。

(齊藤梨佳)

公式ホームページ

JENNE公式通販|パリジェンヌのように凛としたファッションを (parisjenne.jp)

 

公式インスタグラム

JENNE ジェンヌ(@jenne_official) • Instagram写真と動画

 

私の描くグッとムービー

 https://www.asahi-mullion.com/column/article/dmovie/5993

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