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ひとえきがたり

雨晴(あまはらし)駅(富山県、JR氷見(ひみ)線)

海越しの絶景は運次第

雨晴(あまはらし)駅
天気予報とにらめっこして撮影に訪れた日の夕方、正面の女岩の背後に立山連峰が姿を現してくれた
雨晴(あまはらし)駅 地図

 美しい響きの名を持つ駅の前に広がる雨晴海岸は、ある絶景で知られる。富山湾越しに、雄大な立山連峰を望むことができるのだ。

 小さな駅舎の中には、3千メートル級の稜線(りょうせん)から顔を出す真っ赤な日の出や、青空を背にそびえる雪山の姿をとらえた写真がずらりと並ぶ。全国からこの地を訪れる写真愛好家たちの作品だ。空気の澄んだ12月から3月が狙い目だが、冬の北陸できれいに晴れ渡る日はまれ。実際はなかなかお目にかかれない。

 「連泊しても見えない人も多いんです」と太田雨晴観光協会の滝田徹実さん(73)。肩を落とす観光客のため、協会では10年ほど前から駅舎の外に巨大な写真パネルを設置。本物さながらの景色を背に記念撮影ができる。

 雨晴のシンボルはもう一つある。沖合にある女岩(めいわ)は古く万葉集に詠まれ、松尾芭蕉の『奥の細道』にも登場する。「嫁いだ娘が、帰省してこの海を見るとほっとするって言うのよ」。生まれて以来海岸のそばで暮らす布野富美子さん(79)は、女岩(めいわ)のある風景は地元の人々にとって大切なものだと話す。海岸には大陸からの漂着物も多い。自治会が交代で清掃にあたり、老人クラブや小学生たちが漂着物の調査をしている。

 朝6時半ごろ。海岸に出てみると、数人がレンズを構えていた。千葉市から来た窪田浩さん(69)は「3、4年前から10回以上通っていて、立山が見えたのは最初の1度だけ。でもその光景が忘れられなくて」。

 雲の切れ間にオレンジ色の朝日が透け始めた。が、かすかな期待もむなしく、この日も雲はついに晴れなかった。「こればかりは運次第」。窪田さんが苦笑いでつぶやいた。

 文 伊東絵美撮影 浅川周三

 

沿線ぶらり

 JR氷見線は高岡駅(富山県高岡市)と氷見駅(氷見市)を結ぶ16.5キロ。氷見市出身の漫画家、藤子不二雄(A)さんの人気作品をモチーフにした忍者ハットリくん列車も走る。

 雨晴海岸は雨晴駅から徒歩5分。海岸沖の女岩は昨年11月、国の名勝指定の答申を受けた。雨晴の名は、奥州に落ち延びる途中の源義経一行が、弁慶が持ち上げた岩陰で雨宿りしたという伝説にちなむ。

 氷見駅から車で5分の氷見漁港場外市場 ひみ番屋街(TEL0766・72・3400)には32の飲食店や専門店が集まり、ブリに代表される氷見の鮮魚や氷見うどん、氷見牛などが味わえる。

 

 興味津々
武田家住宅
 

 雨晴駅から徒歩20分の武田家住宅(TEL0766・44・0724)は国の重要文化財。武田信玄の弟信綱の子孫と言われる豪農で、18世紀に造られた茅葺(かやぶ)き・寄せ棟造りの建物は「枠の内」と呼ばれる梁(はり)組みなど見どころが多い。高校生以上210円。

(2014年2月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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