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ひとえきがたり

井原電停
(愛知県、豊橋鉄道東田(あずまだ)本線)

急カーブ、市電も街の発展も

井原電停運動公園前電停から井原電停に進入してきた電車。「日本一の急カーブ」は10キロ以下にスピードを落として曲がる
運動公園前電停から井原電停に進入してきた電車。「日本一の急カーブ」は10キロ以下にスピードを落として曲がる
井原電停運動公園前電停から井原電停に進入してきた電車。「日本一の急カーブ」は10キロ以下にスピードを落として曲がる 井原電停

 「右に曲がります。ご注意ください」。豊橋市内を走る通称「市電」の車内にバスで聞くようなアナウンスが響く。井原電停のカーブは半径わずか11メートル。半径18メートルが精いっぱいとされる路面電車のなかでも、日本一という急カーブだ。軌道から大きく車体をはみ出して曲がる姿は「バスがドリフトをしているみたい」と、鉄道ファンの間でも有名だ。

 「あの軌道で実際に電車を走らせるのは、ものすごいこと。模型でもあのカーブは難しい」。市内で鉄道模型専門店を経営する酒井康明さん(52)も、カーブの鋭さに太鼓判を押す。

 急カーブが誕生したのは1982年。市民球場やテニスコートなどを併設した岩田運動公園への交通の便を図るため、井原から枝分かれする600メートルの軌道が新たに敷かれた。道幅に余裕がなく急カーブとなったが、交通渋滞の元凶だと全国でも路面電車の廃止が相次ぐなかで、新線が引かれたのは明るい話題だった。

 「岩田運動公園のあたりは野原で、虫の声も聞こえたな」と「とよはし市電を愛する会」会長の伊奈彦定さん(79)。新線の開通後、梅畑や芋畑が広がる風景は数年で新興住宅地へと姿を変えた。「市電を中心に街も発展していくんですよ。市電を生かした街づくりを若い世代にもつなげていきたい」。市電唱歌を作ったり、小学校の副読本に市電を登場させたりと、次の世代が市電に親しむきっかけ作りに励む。

文 岩本恵美撮影 浅川周三 

沿線ぶらり

 豊橋鉄道東田本線(市内線)は駅前電停と赤岩口電停、運動公園前電停を結ぶ全長5.4キロ。

 11月14日~12月28日、来年1月6日~3月1日、電車に乗って豊橋名産のちくわが入ったおでんが食べられる「おでんしゃ」を運行。3500円(団体貸し切りあり)。問い合わせは予約専用ダイヤル(0532・53・2135)。

 札木電停から歩いてすぐの魚町は鮮魚やちくわなどの老舗が並ぶ。11月14、15日の午後1時、観光ガイドと魚町を巡る「豊橋まちあるき」を開催。申し込みは4日前まで。問い合わせは豊橋観光コンベンション協会(54・1484)。

 

 興味津々
市内電車歴史図鑑
 

 豊橋鉄道創立90周年を記念して、開業当初の電車から最新車両までを一覧できるグッズ「市内電車歴史図鑑」シリーズを発売。シール(200円)、マフラータオル(写真、2000円)など。営業所などで購入できる。問い合わせは豊橋鉄道事業部(0532・53・2139)。

(2014年10月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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