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ひとえきがたり

高畠駅
(山形県、JR山形新幹線)

やさしい鬼が待ってるよ

ライトアップされた建物が雪に映える。地元の人には駅というより温泉施設「太陽館」として親しまれている
ライトアップされた建物が雪に映える。地元の人には駅というより温泉施設「太陽館」として親しまれている
ライトアップされた建物が雪に映える。地元の人には駅というより温泉施設「太陽館」として親しまれている 地図

 山形新幹線で米沢駅から10分足らず、雪に埋もれた城のような駅に到着した。改札の横で迎えてくれたのは赤い鬼。立て札には「いつまでもみんなのともだち」。ちょっと豆は投げづらい。

 一面の雪野原が広がる高畠町は童話「泣いた赤おに」の作者、浜田広介(1893~1973)の故郷だ。「うちの鬼はやさしい鬼。出ていかれたら困る」と町観光協会の小林利裕さん(48)。

 人と仲良くしたい赤鬼と、赤鬼のために悪役をかって出る青鬼の物語が発表されたのは1933年、東北地方が昭和三陸地震と津波に襲われた年だ。「幼年向け童話は善意だけを書くべきというのが広介の信念。大人になれば悪は嫌でも知っていくからと」。町内にある浜田広介記念館館長の樋口隆さん(64)は話す。

 もともと奥羽線の無人駅だった。新幹線誘致を狙って92年、メルヘンの世界をイメージした駅舎に改築。温泉と500台の無料駐車場を併設した。町商工会青年部の約70人が仙台市のJR東日本東北地域本社(当時)までの約100キロを、「高畠駅停車」と書かれただるまを背負ってリレーもした。そのかいあってか、今は平日7往復のつばさが停車する。

 玉こんにゃくを煮る甘辛いにおいが漂う中、雪かきを終えた町民らが、おけを抱えて改札横の「ゆ」ののれんをくぐっていく。町内で菓子店を営む高橋初子さん(68)は言った。「鬼も福も春も全部来い来い、だよ」

文 塩見圭撮影 馬田広亘 

沿線ぶらり

 山形新幹線は福島駅(福島市)と新庄駅(山形県新庄市)を結ぶ148.6キロ。在来線の設備を活用したミニ新幹線で、高畠駅は奥羽線旧糠(ぬか)ノ目駅。

 2月7日~11日、高畠駅前で「冬咲きぼたんまつり」。雪景色の中、こも飾りのボタンを展示。問い合わせは町観光協会(0238・57・3844)。

 2月11日、かみのやま温泉駅から徒歩10分の上山市内で「奇習 加勢鳥」。みのをかぶった若者らが練り歩く。問い合わせは市観光物産協会(023・672・0839)。

 2月14日と15日、米沢駅からバスで10分の上杉神社で「上杉雪灯篭まつり」。問い合わせは事務局(0238・22・9607)。

 

 興味津々
赤鬼
 

 駅には赤鬼=写真=のほか、友だちの青鬼もいる。二十数年前、祭りのために役場の有志が紙で手作りし、みこしに乗ってそのまま駅に居座った。童話では離ればなれになった2人。「駅で再会しています」と観光協会の小林さん。

(2015年2月3日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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