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浮世絵【上】 太田記念美術館

現代に通じる切り口を工夫

歌川国芳「里すゞめねぐらの仮宿(部分)」(大判錦絵、1845~46年ごろ)
歌川国芳「里すゞめねぐらの仮宿(部分)」(大判錦絵、1845~46年ごろ)
歌川国芳「里すゞめねぐらの仮宿(部分)」(大判錦絵、1845~46年ごろ) 歌川芳虎「家内安全ヲ守 十二支之図」(大判錦絵、1858年)

 浮世絵の美人画や名所絵は、今でいうアイドルや絶景の写真。現代の流行にも通じる浮世絵は17世紀後半に誕生し、印刷技術の発展とともに、娯楽のための商品として江戸の庶民に親しまれました。

 浮世絵専門の太田記念美術館は、江戸から明治までの約1万4千点を収蔵し、年に8回ほど企画を立てて公開しています。これまで、「女子力」をテーマに化粧や習い事にいそしむ女性を描いた作品を紹介したり、「美男子」の作品を選(え)りすぐって並べたり。現代とリンクさせた切り口を工夫しているのも特徴です。

 今開催しているのは、昨今でも人気の動物をテーマにした企画展「浮世絵動物園」。鈴木春信や葛飾北斎らが描いた動物を見ることができます。歌川国芳の3枚続きの作品「里すゞめねぐらの仮宿」は、浮世絵にメディアとしての役割もあったことがわかる一枚。火事で焼失した吉原の遊郭が仮宅(かりたく)で営業を始めたことを伝えています。題名にある「里すずめ」とは遊郭に通い慣れた人を指す語句。質素倹約を旨とした天保の改革以降、遊女を描くことは禁じられていたため、遊女や客の頭部をスズメにしたのです。

 奇妙な姿が目を引くのは、歌川芳虎の「家内安全ヲ守 十二支之図」。十二支をすべて合体させています。万人に向け、いつまでも安全にという意味があるのでしょう。

(聞き手・牧野祥)


 コレクションの概要

 生命保険会社の社長を務めた5代太田清蔵(1893~1977)が浮世絵の海外流出を憂えて集めたコレクションが核。版画約1万1千点、肉筆画約800点のほか、下絵や扇など。浮世絵の初期から明治までの様々な作品を網羅している。美術館の開館は1980年。

 5月28日までの企画展「浮世絵動物園」では前後期合わせて約160点を公開。「里すゞめねぐらの仮宿」の展示は4月26日まで。「家内安全ヲ守 十二支之図」は5月2日~28日に展示予定。

《太田記念美術館》 東京都渋谷区神宮前1の10の10。午前10時半~午後5時半(入館は30分前まで)。(月)と4月27~30日休み。700円。問い合わせは03・5777・8600。

木村泰司さん

国学院大文学部教授 藤澤紫さん

ふじさわ・むらさき 史学科で日本美術史、日本近世文化史、比較芸術学を教える。国際浮世絵学会常任理事。著書に「鈴木春信絵本全集」「遊べる浮世絵 体験版・江戸文化入門」など。

(2017年4月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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