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名作椅子【上】 武蔵野美術大学美術館・図書館

デンマークの逸品を楽しむ

フィン・ユール「チーフティンチェア」(1949年、製造は94年) ローズウッド材 革張り
フィン・ユール「チーフティンチェア」(1949年、製造は94年) ローズウッド材 革張り
フィン・ユール「チーフティンチェア」(1949年、製造は94年) ローズウッド材 革張り ハンス・ウェグナー「ザ・チェア」(1949年、製造は71年) チーク材 革張り

 用と美を兼ね備え、半世紀以上にわたり製造販売されている名作椅子に、近年注目が集まっています。武蔵野美術大学美術館・図書館は、主に20世紀の欧米と日本の椅子を所蔵しており、中でもデンマークの椅子は一見に値します。

 デンマークは、日本で人気の高い北欧家具の中心的な存在です。1920年代以降、古典様式の家具を改良しながら、審美性と機能性を追求し、多くの名作椅子を生み出してきました。

 家具デザイナーは家具職人のマイスターの資格を取ることが通例でしたが、フィン・ユール(1912~89)は資格を持たず、自由に発想しました。彼の椅子は流れるようなラインが特徴で、「家具の彫刻家」とも言われています。「チーフティンチェア」は、自邸の暖炉脇で使うためにデザインされたもの。威厳と品格を感じます。フレームと座面を離して浮遊感をもたせた構造や、後脚上部の「耳」のような造形が魅力です。

 一方、「Yチェア」で知られるハンス・ウェグナー(1914~2007)は、14歳の時から家具職人のもとで修業を始め、17歳でマイスターの資格を取得しました。「ザ・チェア」は、背とアームが一体化した中国・明代の椅子の影響が見られます。シンプルで座り心地が良く、完成度が高い。僕は前者は天才、後者は秀才だと思っています。

(聞き手・牧野祥)


 どんなコレクション?

 武蔵野美術大学が学生の教育資料として、1967年から集めてきた近現代の椅子は約400点。そのうち、ほぼ半数を日本とデンマークのものが占める。ほかに、20世紀を中心とした国内外のポスター約3万点、スイス製の木製玩具なども所蔵している。

 同大学美術館・図書館内の椅子ギャラリーで、「チーフティンチェア」と「ザ・チェア」を含む約100点を常設展示。ガラス越しに鑑賞できる。

《武蔵野美術大学美術館・図書館》 東京都小平市小川町1の736(TEL042・342・6003)。美術館は、午前10時~午後6時((土)と特別開館日は5時まで)。原則(日)(祝)と、8月14日~9月2日(椅子ギャラリーは8月21日から)休み。

織田憲嗣さん

椅子研究家 織田憲嗣(のりつぐ)

 1946年生まれ。東海大名誉教授。20代から椅子を集め始め、現在、20世紀欧米を中心とした椅子約1300種類を含む家具、日用品などを所有する。その一部を、北海道東川町の町文化芸術交流センター、旭川市のチェアーズギャラリーで常設展示。

(2017年8月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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