読んでたのしい、当たってうれしい。

街の十八番

駒村清明堂@茨城県石岡市

自然に寄り添う線香作り

成形されたばかりの線香を手にする駒村さん
成形されたばかりの線香を手にする駒村さん
成形されたばかりの線香を手にする駒村さん 「ようげ」と呼ばれる棒状の道具で、一定量の線香を束にまとめる。杉100%の「水車杉線香」は、5束入りで1200円

 筑波山麓(さんろく)の伏流水から水を引き、明治後期の創業当時から水車を使った杉線香作りを続ける駒村清明堂。

 原料の杉の葉は、5代目の駒村道廣さん(63)自ら秋冬季に山に入って採る。香りを残すため数カ月かけて乾かし、直径4メートルの水車を動力に、粉砕し、杵(きね)でつき、ふるいにかけて、微粉末にする。杵は「心臓の鼓動と同じくらいの速さ」で粉を打つ。適度な速度が熱の発生を抑え、粉の香りを逃がさず粘りを出す。つなぎは加えず、湧き水を沸かした湯で練る。燃料は葉を取った後の杉の枝。徹底して自然に寄り添う仕事ぶりだ。

 初代は豊かな水と良質な杉を求め、新潟から栃木を経て移住してきた。半世紀前まで近所で線香屋や米屋など十数軒の水車が働いていたが、現在残るのは同店だけ。

 25年前、染料すら加えない杉100%の線香を作り始め、近年は菊やはちみつなど様々な香りを取り入れた商品を発売。時流とともに変化もする一方で、常に変わらないのは「手間がかかっても、一番良いものを作りたい」という思いだ。

(文・写真 安達麻里子)


 ◆茨城県石岡市小幡1899(TEL0299・42・2819)。午前8時~午後6時。(日)休み。石岡駅からバス。見学も可能(要予約)。

(2017年7月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

街の十八番の新着記事

  • 水戸元祖 天狗納豆@水戸 茨城といえば納豆というイメージをつくったのが水戸の「天狗(てんぐ)納豆」。

  • 大和屋@日本橋 東京・日本橋、三越前に店を構えるかつお節専門店。江戸末期、新潟出身の初代が、魚河岸のあった日本橋で商いを始めた。

  • 佐野造船所@東京・潮見 水都・江戸で物流を担ったのは木造船だった。かつて、和船をつくっていた船大工は今はほとんど姿を消した。佐野造船所は、船大工の職人技を代々受け継ぎながら生き延びてきた。

  • 天真正伝香取神道流本部道場@千葉・香取 「エイ」「ヤー!」。勇ましいかけ声と木刀の打ち合う音が響く。千葉県香取市、香取神宮のほど近く。約600年連綿と伝えられてきた古武術、天真正伝(しょうでん)香取神道流の本部道場だ。

新着コラム