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私の描くグッとムービー

本田博太郎さん(俳優)
ストレイト・ストーリー(1999年)

余計な演出なし 表情に「愛」と「許し」

 静かな音楽と予告編に触れて「これは!」と思って、公開初日に有楽町の劇場に見に行くと、やっぱり大当たり。サウンドトラックのCDも即買い、今も家でずっと聞いています。

 疎遠になった倒れた兄を訪ね、老人がトラクターに乗って500キロ以上の道のりをゆっくり進んでいく。見たところ何も起きず、様々な人との出会いを描く淡々としたロードムービーですが、言葉少なく、物静かな表情の裏にある「愛すること」「許すこと」の劇的な内面が全編に漂っている。道中は何が起きてもおかしくないが、何か目立つ出来事を盛り込めば、その途端に普通の映画になっちゃう。説明過多にならず、見る側の想像に委ねられている。それがいい。

 絵の右側の夕日は、向かう先にある兄貴の顔の象徴。下にはその気配が映っています。左側は主演俳優ではなく、あえて自分の顔に似せて老人の憂いを表現しました。夕日は、希望を感じさせる朝日と違って複雑なものです。そんな世界観を、15分ほどで鉛筆で一気に描きました。

 主演の方はスタントマンだったそうで、俳優とはやはり立ち位置が違う。裏方の一歩引いた感じがある。寂しげな少年のような目が、俳優の濁ったまなざしとは違うんですよ。リンチ監督は、あの顔や気配、生き方が欲しかった。芝居なんかしなくていいんです。視覚的に主張が強い作品が多い監督ですが、この作品を見て、本質は究極の人間性に目が向く優しい人だと感じました。

 いつか自分も、心ある監督と合宿しながら意思疎通し、余計な演出のない自然な表現を写し取るこんな映画の日本版をやりたい。

(聞き手・織井優佳)

 

  
   監督=デヴィッド・リンチ   

 製作国=米国

 出演=リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセクほか

 

 ほんだ・ひろたろう 俳優 1951年、茨城県生まれ。79年にゴールデン・アロー賞演劇部門新人賞。時代劇やドラマなどに多数出演。書家の顔も持つ。
 
(2026年5月22日、朝日新聞掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)

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