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横浜開港資料館

公使館襲撃 場違いな人物なぜ

横浜開港資料館
「贈正五位古川忠興東禅寺襲之図画」 縦116.0×横62.5センチ
横浜開港資料館 横浜開港資料館

 横浜港のそばにある当館は、幕末~昭和初期の横浜に関する資料約27万点を収蔵しています。

 旧館は旧英国総領事館という縁もあり、開催中の企画展は日英関係をテーマにしています。

 「贈正五位古川忠興東禅寺襲之図画」は1861年、水戸浪士が英国公使館を襲撃した「東禅寺事件」が題材です。

 現在の東京都港区にある東禅寺は、日英修好通商条約の締結後、英国公使館が最初に置かれた場所。

 攘夷派の浪士は、オールコック公使が長崎から江戸へ陸路で旅をしたことに「神州日本が汚された」と憤って侵入、警備の幕臣や藩士らと戦闘になり、双方に死傷者が出ました。

 この絵は事件から約30年後、襲撃した浪士が明治政府から贈位されて以降に描かれたと思われます。

 興味深いのは、抜き身の刀を手にした浪士や負傷した外国人に囲まれた真ん中の人物。

 拍子木を持ち、腰に差した刀が1本なので町人と思われますが、緊迫した場面に似あわぬ飄々とした表情で、コミカルな雰囲気さえ漂います。

 史実に沿えば警備の武士を描いても良さそうなのに、日本人同士が斬り合う姿を避けたのか。あるいは外国貿易で利益を得る商人への反感が背景にあるのか。想像力がかき立てられます。

 歴史的事件を題材にしながら、何枚も刷って多くの人に知らせる錦絵ではなく、肉筆画であることも不思議です。

 「高輪接遇所」は66年に泉岳寺の門前に移転した英国公使館を米国人写真家が写したものです。

 新築にあたり英国側は西洋建築を希望。幕府は断りましたが、結局和洋折衷になったことが屋根の造りなどから分かります。

 外国人立ち入りが制限されていた幕末の江戸の古写真は少なく、特に高輪接遇所を写したものを見たのは初めてで、とても驚きました。

 英陸軍士官旧蔵のアルバムに収められている貴重な一枚です。

(聞き手・小森風美)


 《横浜開港資料館》 横浜市中区日本大通3(問い合わせは045・201・2100)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。300円。原則(月)休み。「贈正五位古川忠興東禅寺襲之図画」は11月7日まで、「高輪接遇所」は10月10日まで展示予定。

よしざき・まさき

調査研究員 吉崎雅規

 よしざき・まさき 2018年から現職。専門は幕末の日本と外国の関係を探る幕末対外関係史。著書に「幕末江戸と外国人」(同成社)。

(2021年9月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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