木華開耶媛(このはなさくやひめ)
京都画壇で活躍した堂本印象。理想を集約した代表作。
伝統的な日本画や仏画を描いて活躍した堂本印象は戦後、社会風俗を主題にした作品へと転換して周囲を驚かせた。1952年にはフランスやイタリアなどを巡り、見聞した風物をスケッチや油絵に残した。
その翌年に発表した本作は、パリの地下鉄車内を描いた。恋人同士や母子、芸術紙を読む男性など乗り合わせた人々は互いに無関心で、都会の中の孤独を感じさせる。
後方には、目を黒く塗りつぶした人々の姿。「日の当たらない、厳しい環境にある人を捉えたのでは」と、学芸課長の鬼頭美奈子さんはみる。印象は京都の造り酒屋で生まれたが、父が事業に失敗するなどして生活が困窮。図案描きや木彫の仕事で家計を支えた時期があった。「苦労した経験もあって、かげりのある人々にも目が向くのだろう。鋭い洞察力が表れている」
紫やピンク色などの豊かな色彩も特徴。後の抽象作品にも多く用いられた。