粉引茶碗 銘「雪の曙」
東の魯山人、西の半泥子。財界・文化人に通じた商家から華開いた才能。
春の野に座るのは、日本神話の女神、木華開耶媛。純白の衣をまとい、黒髪には豊穣(ほうじょう)を象徴するブドウのツタが添う。
作者は、大正~昭和期の京都画壇で活躍した日本画家・堂本印象(1891~1975)。西陣織の図案家を経て、27歳で帝展に入選してデビューした。本作は、画壇での地位を築いた30代後半で描いた。
気品ある表情の女神は、神秘的な存在感を放つ。印象はこの時期、格調高い女性像や花鳥画のほか、仁和寺や東寺など寺社の障壁画制作にも打ち込んでいた。「本作は印象が求めていた理想を集約した代表作だといえる」と、学芸課長の鬼頭美奈子さんは紹介する。
女神の周りには満開の桜。足元にはタンポポやツクシ、ゼンマイが伸びる。「植物の細やかな描写も特徴。様々なモチーフを採り入れながらも、女神の姿がパッと目を引く。緻密(ちみつ)な構図が生きている」と鬼頭さんは話す。