喫茶サニー オム焼きそば 浪曲師の木村勝千代さんが「育ての母」を慕った曲師(三味線弾き)沢村豊子師匠と通った東京・浅草の喫茶サニー。オム焼きそばを食べると昨年亡くなった豊子師匠の思い出が蘇ってきます。
NHKの連続テレビ小説「ばけばけ」の主人公トキとヘブン夫婦のモデルは僕の曽祖父母、小泉セツと八雲です。講演でお招きいただき、あちこちに足を運びます。行く先々の味は楽しみですが、このどぜうなべは特別です。
松江で暮らして長くなりましたが、生まれも育ちも東京。駒形どぜうは亡き父が親しんだ店でした。初めて連れて行かれたのは小学生のころ。外食なんてたまの楽しみで、どぜうなべにイチコロ。新婚旅行の帰路にもこの味が恋しくなって寄ったものです。
骨の食感が心地よく、ぐつぐつ煮るにつれ、こっくりとした味がしみてきます。だしのふっくらした香り、シャキシャキの白ネギにはやしたてられ、箸が進みます。
父と僕のそばでは、たいてい職人風のおじさんが鍋をつつきながら一杯やっていました。粋な感じでしたね。近くに雷門もあり、日が暮れるといっそう下町の風情に包まれるようでした。
拙著「セツと八雲」(朝日新書)でもふれましたが、日本が激変した明治期に来日した八雲が愛惜したのは「日本の面影」でした。洋食好みではありましたが(笑)。祖父や父も八雲と同じく、変わらぬ風情に思い入れがありました。僕がこの店にひかれてやまないのは、自然な流れなのかもしれません。
(聞き手・木元健二)
◆東京都台東区駒形1の7の12(☎050・5448・6266)。創業は1801年。どぜうなべ3380円。午前11時~午後8時半(ラストオーダー8時)。不定休。
