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私の描くグッとムービー

桐竹勘十郎さん(人形浄瑠璃文楽人形遣い)
「チキ・チキ・バン・バン」(1968年)

自然と浮かぶメロディーに幸福感

桐竹勘十郎さん(人形浄瑠璃文楽人形遣い)「チキ・チキ・バン・バン」(1968年)

 15歳で文楽の初舞台を踏んだ頃、生まれて初めて見たミュージカルでよく覚えています。

 発明家のポッツが、ボロボロのレーシングカーをよみがえらせて、2人の子どもと、製菓会社の令嬢トルーリーとドライブに出ます。原作は「007」のイアン・フレミング。彼は車好きで、50年ほど前の映画なのに車を空に飛ばしたり、水上を走らせたり、その工夫が面白いですね。空想か現実の話か途中でわからなくなるけど、作品の力で幸せな気分になる映画です。音楽も良くて、当時はLPレコードを毎日何度も聞いていました。映画を思い出すと、「チキチキバンバン~」と、自然にメロディーが頭に流れてきます。

 車を狙う悪男爵にさらわれたポッツの父と子どもたちを救うために、男爵の誕生日祝いの動く人形に化けたポッツとトルーリー。その人形振りも素晴らしかったです。トルーリーがゼンマイ仕掛けのオルゴール人形、ポッツは糸操りの人形になって、硬い機械的な動きと、糸操りのしなやかな動きとの対比がとても印象的でした。絵は人形に扮した2人を描きました。

 ポッツの発明品が面白いですね。僕も変な物を作るのが好きで、大正琴を改造してエレキ大正琴にしたことも。先代の父も姉の三輪車にパラソルを付け、舞台については「工夫次第や」とよく言っていました。外国で文楽を説明する時、オペラやミュージカルみたいなものと話します。三味線や義太夫節につれて人形が表現する音楽劇です。文楽は9割方が悲劇なので、映画は楽しいのがいいですね。

(聞き手・清水真穂実)

  監督・共同脚本=ケン・ヒューズ
  音楽=シャーマン兄弟ら
  製作=英
  出演=ディック・バン・ダイク、サリー・アン・ハウズほか
きりたけ・かんじゅうろう
 1953年生まれ。9月7~23日、東京・国立劇場小劇場「心中天網島」に出演。著書に「一日に一字学べば……」(コミニケ出版)。
(2019年7月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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