「アリス」(1988年) 世界中で読まれているお話のシュバンクマイエル版は一つ一つのモチーフがかなりダーク。
公衆トイレの清掃員をしている主人公・平山の日常が淡々と描かれています。彼がとても真摯(しんし)に仕事に取り組んでいるのが素敵です。植物に水をあげるなど、毎日のルーチンを大切にしている彼は、気持ちが乱れている時もそのルーチンに支えられているように感じました。
平山さんと私は似ている気がします。彼は自分の世界を愛していて、少し内向的な性格。だから1人でコツコツとやる仕事を選び、自分を周りの変化から守ろうとしているのだと思います。私もイラストレーターの道を選んだのは、人付き合いが苦手で、自分のペースでやる仕事に就きたかったから。共感できる部分が多いです。彼が劇中で困っていると、私までつらくなってしまいます。
掃除中に人がやってきても平山さんは嫌な顔をせず、外に出て満足そうに笑いながら木々を眺めます。このシーンが心に残っていて、今回のイラストにも描きました。私は木を描くのが好きなので、自然が多く登場するこの映画は、自分の絵の世界観にも合っている気がします。彼が休憩を楽しむ姿を描くことで、人生の一瞬のきらめきをみずみずしく表現できていたら良いなと思います。
私の仕事は相手から伝えられたイメージに沿ってイラストを描くことが多く、同じことの繰り返しに感じる時もあります。でもそんな日常の中でも、彼のようにちょっとした幸せを見つけ、それを積み重ねることで人生はできあがっていくんですよね。そしてその先にきっと、自分の「PERFECT DAYS」を作ることができる。この映画を見て再確認できました。
(聞き手・斉藤梨佳)
![]() 監督・共同脚本=ビム・ベンダース
製作国=日・独 出演=役所広司、田中泯、中野有紗ほか
ふなつ・まこと 1977年、東京都生まれ。国内外の書籍の装画など、幅広く活躍。米紙ニューヨーク・タイムズの挿絵も手がけた。
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