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ドローイング 岩手県立美術館

彫刻家の空間把握力

(右)舟越保武「キリスト」 1988年 木炭、紙 (左)舟越保武「ゴルゴダ」 1989年 ブロンズ
㊨舟越保武「キリスト」 1988年 木炭、紙 
㊧舟越保武「ゴルゴダ」 1989年 ブロンズ
(右)舟越保武「キリスト」 1988年 木炭、紙 (左)舟越保武「ゴルゴダ」 1989年 ブロンズ 舟越桂「『水をすくう手』のためのドローイング」1994年 鉛筆・木炭、紙

 当館は、岩手県ゆかりの洋画家の萬(よろず)鐵五郎と松本竣介、彫刻家の舟越保武を柱に作品を収集しており、今は、その中から「彫刻家のドローイング」に絞って展示をしています。

 そもそもドローイングは、絵画や彫刻作品の構想を練り、習作として描く素描やデッサンのこと。作品の二次的なものと考えられがちです。しかし、彫刻家のドローイングは、平面の上で空間を把握しようとしているところが絵として面白く、作家が対象を捉えるまでの間に考えたことが詰まっていて、それ自体が貴重な作品といえます。

 カトリック信者だった舟越保武(1912~2002)は、キリスト教に関係する作品を数多く残しました。この「キリスト」は、1987年に脳梗塞(こうそく)で倒れた後の作品。右半身がまひして自由がきかなくなり、懸命にリハビリを続け、左手で描いたものです。それ以前の作品は、清らかな女性や聖人像のイメージでしたが、倒れた後は苦難を背負ったキリスト像を制作するようになります。自身の苦悩をキリストに重ね合わせていたのかもしれません。このドローイングの後に作った彫像が「ゴルゴダ」。これらの病後の作品は、見る人の気持ちをつかむような迫力が感じられます。

 一方、息子の舟越桂(1951~)のドローイングは彫刻作品とほぼ同じ大きさで、設計図のよう。光の当たり方や首の傾きなどを紙の上で確認しているように思います。

(聞き手・石井久美子)


 《岩手県立美術館》 盛岡市本宮松幅12の3(TEL019・658・1711)。午前9時半~午後6時。(月)((祝)(休)の場合は開館)と(祝)(休)の翌日休み。3作品は4月21日までの特集展示「彫刻家のドローイング」で。410円。

吉田さん

学芸員 吉田尊子

 よしだ・たかこ 1996年の美術館整備室時代から勤務。「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」などを手がける。

(2019年3月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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