京都で活躍した日本画家・堂本印象(1891~1975)が自身の作品を収蔵する美術館として1966年に開館しました。外観、館内装飾、インテリアを印象自ら手がけ、館そのものが芸術世界を表す「作品」になっています。
流線形の白壁一面にレリーフ状の抽象的な模様が施された建物。ロビーには色ガラスを組み合わせたステンドグラス作品が表裏2面あり、ガラスの廃材やデパートの包装紙も装飾に使われています。ガラス扉の取っ手は、28点すべてが抽象作品でそれぞれ題名があります。館内や庭園の椅子も一つ一つ違います。白と金色の装飾を施した扉や壁、タペストリー、案内板……。彫刻や染織、陶芸など、日本画の枠を超え創作に取り組んだ印象の集大成といえます。
印象は織物関係の図案家を経て27歳で絵画専門学校に入学し、翌年の帝展でデビュー。官展への出品作や様々な依頼画、寺院の障壁画なども多く手がけました。43年にこの地に越したころには日本画の大家となっていましたが、残りの人生は自分のやりたい事をすると決めていたそうです。戦後は抽象表現に挑戦。52、61年の渡欧で見た美術館や宮殿などを参考に、美術館構想を練りました。衰えることのない好奇心や探究心を感じます。
前衛的な建築には批判もあったようです。しかし印象は「金閣寺を見たらいい。平等院の鳳凰堂でも、それができたときはケッタイだったに違いない」と意に介しませんでした。いずれ歴史的建造物になると考えたのでしょう。当館は今年、国の登録有形文化財に登録される見通しです。
企画展で展示中の「聖母マリア(小下絵)」は、大阪高松カテドラル聖マリア大聖堂(大阪市)にある壁画の下絵。渡欧した際、各地の教会を訪ねた印象は、「日本には日本のマリア様を」と考え、和装姿で描きました。桃山時代の小袖をまとい、顔立ちにも日本的な美しさが表れています。
(聞き手・木谷恵吏)
《京都府立堂本印象美術館》 京都市北区平野上柳町26の3(☎075・463・0007)。[前]9時半~[後]5時(入館は30分前まで)。原則[月]休み。「聖母マリア(小下絵)」は没後50年記念企画展「堂本印象と大阪」(9月23日まで)で展示中。
![]() 主任学芸員 松尾敦子さん まつお・あつこ 神奈川県出身。茨城県天心記念五浦美術館などを経て2022年から現職。専門は日本美術史。 |