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私のイチオシコレクション

加賀の婚礼道具 金沢くらしの博物館

先祖に敬意込め あいさつ

加賀の婚礼道具 金沢くらしの博物館
花嫁のれん 182×109センチ 羽二重 上部は実家の家紋。邪気を払うとされるショウブと花の端午薬玉、長寿を願う松が描かれた扇の絵柄
加賀の婚礼道具 金沢くらしの博物館 加賀の婚礼道具 金沢くらしの博物館

 当館は1899年に石川県第二中学校の校舎として建てられ、2017年に国の重要文化財に指定された木造建築を活用した博物館です。金沢の冠婚葬祭に使われた品や生活用品、道具などを所蔵し、その多くが市民から寄贈されたものです。

 金沢を含む旧加賀藩の地域には婚礼にまつわる独特の風習や品々があります。花嫁のれんは幕末ごろに始まり、しだいに庶民にも広がったとされるもの。花嫁が持参して婚家の仏間の入り口に掛け、仏壇に初めて参る時にくぐります。

 仏壇参りは先祖をあつく敬う浄土真宗の盛んな地域で見られ、先祖に結婚のあいさつをするとともに、一種の結界をくぐることで身を清め、生まれ変わるという意味合いを持ったと考えられます。「嫁入り道具はなくとも、花嫁のれんだけは持ってきて」と言われることもあったそうです。高度成長期に最も盛んでしたが、現在は一般的ではなくなりました。

 袱紗は近所へのあいさつの際に使用されました。輪島塗の重箱に赤飯と生菓子を詰め、袱紗をかけて親族などが花嫁の使いとして届けます。重箱にかけたことから「じゅうかけ」とも呼ばれ、加賀繍(刺繍)などの装飾が施されました。

 写真の花嫁のれんは大正時代、袱紗は明治のものと思われます。婚礼の時しか使われませんが丹精込めて作られたものが多く、なにより里の親が持たせてくれたという特別な思いがあって、大切に保管されていたと考えられます。

(聞き手・三品智子)


 《金沢くらしの博物館》 金沢市飛梅町3の31 紫錦台中学校敷地内(問い合わせは076・222・5740)。
 午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。
 310円。
 展示替え期間と年末年始休み。
 袱紗の展示は27日から。

学芸員 東條さやか

 学芸員 東條さやか

 とうじょう・さやか 2006年から勤務。所蔵品の収集・管理・研究のほか、年5回の企画展示をすべて1人で担当する。

(2020年10月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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