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北海道立北方民族博物館

狙った海獣 確実に捕らえる

離頭銛(斜めに展示されているもの) 1924年取得 長さ360センチ

 北海道網走市にある当館は、アイヌ民族を含め北半球の寒帯、亜寒帯気候の地域に暮らす民族の衣食住や生業(なり・わい)に関する資料を約900点展示しています。

 アイヌ民族は川でのサケ漁やシカ、クマなどの狩猟、山菜の採集を主な生業としていましたが、アザラシなど海獣類の狩猟も行いました。

 「離頭銛(り・とう・もり)」は海獣の狩猟に使った道具です。網走市近辺で収集されたこの銛は長さが3・6メートルと非常に長く、また銛先(先端)が二股になっている点が珍しいものです。遠くから獲物を狙い、二つの銛先で確実に捕らえるためでしょう。銛先はシカの角に鉄がはめ込まれています。柄は加工がしやすいホオの木です。

 獲物を突くと銛先が柄から離れて獲物の体内に残ります。銛先に取り付けられた綱を手繰り寄せると、銛先が獲物の体内で90度回転して抜けなくなり、獲物を逃さずに捕らえることができます。突いたとき柄がついたままでは獲物が暴れた場合に制御するのが難しいですが、柄は外れて綱を引けばよいため大きな獲物も捕らえることができたと考えられます。

 「カヤック」はベーリング海に位置するキング島で使われていたものと推測されます。エスキモーがアザラシやセイウチなど海獣猟に使っていたもので、使用感が残った貴重な資料です。木材で造った骨組みに大型種のアゴヒゲアザラシの皮が張られ、波がある海で使用するため乗り口以外は閉じてあります。

 狩猟を主な生業としてきたエスキモーには、獲物を近隣の人と分け合う文化が根付いていました。店で食料を入手するようになった現代でも民族のアイデンティティーとして狩猟をする習慣が残っているようです。

 アイヌ、エスキモーいずれの民族も、狩猟で得た動物の肉や内臓は無駄なく摂取していました。特に脂は寒さを乗り越えるための効率良いエネルギー源として重要だったのです。

(聞き手・深山亜耶)


 《北海道立北方民族博物館》北海道網走市潮見309の1(☎0152・45・3888)。午前9時半~午後4時半(7~9月は9時~5時)。550円。原則[月]、年末年始休み(7~9月、2月は無休)。 

なかだ・あつし

学芸員 中田篤 さん

なかだ・あつし 1966年山形県出身。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。97年から現職。専門は北方民族。

(2024年4月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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