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新印象派【上】 ポーラ美術館

「点描」生み出した実験的作品

ジョルジュ・スーラ「グランカンの干潮」(油彩・キャンバス、1885年)
ジョルジュ・スーラ「グランカンの干潮」(油彩・キャンバス、1885年)
ジョルジュ・スーラ「グランカンの干潮」(油彩・キャンバス、1885年) カミーユ・ピサロ「エラニーの花咲く梨の木、朝」(油彩・キャンバス、1886年)

 印象派の流れを受けて19世紀末に登場した新印象派。色彩理論を科学的に発展させ、点描で「光」を表現しました。点描を確立したスーラは、31歳で死去したため作品数が少ないですが、貴重な一枚がポーラ美術館にあります。

 スーラは、1886年の印象派展に有名な「グランド・ジャット島の日曜日の午後」を出品し、点描を披露して世間を驚かせました。2年を費やした同作の制作中、実験的に描いたのが「グランカンの干潮」です。よく見ると、点と点の間にまだ隙間があります。点描の生まれかけの様子がわかって面白いですね。

 点描技法は、細かい色の点が見る人の目の中で混ざり合い、明るい色彩をもたらします。スーラは本作で、絵を引き立たせるため、補色を使い周辺を囲いました。海の緑の近くは赤、浜のオレンジの隣は青など、場所によって様々な色が見られます。注目してみてください。

 スーラの登場は、印象派の名だたる画家たちに影響を与えました。その一人がピサロです。点描に取り組んだ時期に描いたのが「エラニーの花咲く梨の木、朝」。しかし、点描は根気がいる描法だったため、ピサロは次第に遠ざかり、世間の点描ブームも早くに沈静化しました。もしスーラが長生きだったら、また違った影響を残したかもしれません。

(聞き手・星亜里紗)


 どんなコレクション?

 印象派から新印象派の流れを体系的に見ることができる。新印象派は、スーラ1点、シニャック3点、プティジャン2点、クロス1点。全体のコレクションは、ポーラ創業家2代目の鈴木常司が四十数年間にわたって集めた、絵画や版画、彫刻、陶芸、ガラス工芸、化粧道具など約1万点に及ぶ。絵画は、主要な画家の生涯や画業の展開が追えるような作品がそろう。今回紹介した2作は、開館15周年の記念展「100点の名画でめぐる100年の旅」(2018年3月11日まで)で展示中。

《ポーラ美術館》 神奈川県箱根町仙石原小塚山1285(TEL0460・84・2111)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。1800円。展示替えのための臨時休館あり。

坂上桂子さん

早稲田大学文学学術院教授 坂上桂子

 さかがみ・けいこ 早稲田大学大学院修了。博士(文学)。新印象派を中心とした美術史が専門。現在のテーマは都市と美術。著書に「ジョルジュ・スーラ」「ベルト・モリゾ」。「ACe建設業界」に「名画に見る土木・建築」を連載中。

(2017年10月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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