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建モノがたり

東京都豊島合同庁舎(東京都豊島区)

光を取り入れ 街に溶け込む

外壁は自然石調の塗装をし、手作業で筋目をつけた仕上げ
外壁は自然石調の塗装をし、手作業で筋目をつけた仕上げ
外壁は自然石調の塗装をし、手作業で筋目をつけた仕上げ 4~6階のせり出し部分。「塔」の上部の雨よけも同じ弓なりの形をしている

まるで音楽室の壁。2本の「塔」の左右には、穴の開いた外壁が広がる。街の一角に現れた点々の理由は?

 建物が立つのは、商業施設や東京芸術劇場が並ぶ一角、池袋西口公園の隣だ。1996年、豊島都税事務所などが入る庁舎として建設された。

 設計者の故・大江匡さんは、目の前の広場にイタリア・シエナの町並みを重ねた。2本の柱を配したようなユニークな外観は、シエナのカンポ広場に臨み空へと伸びる塔をイメージ。

 大江さんの下で基本設計から携わった角野文和さん(54)は「公共の建物なので、都市を特徴づけるモニュメントとしての役割も考えました」と話す。

 設計に当たって懸念したのは、夜もにぎわう商業地にある庁舎が、終業後に真っ暗になってしまうことだった。

 暗闇を目立たせないようにガラスの壁面を外壁で覆い、夜間用のアッパーライトを整備した。現在は節電のため点灯していないが、照明がつくと違和感なく街に溶け込む。

 外壁に無数に開けた直径30センチの丸い穴は、建物内のオフィス環境への配慮だ。ガラス面から約1.5メートル離した外壁の裏側にはアルミパネルを張り、隙間や穴から差し込む自然光を反射させて室内に取り込む。

 壁は外からの目隠しをしつつ、穴によって光を共有し、街と庁舎をゆるやかにつないでいるのだ。

 「事務仕事は直接光が当たるとやりづらい。ブラインドのように適度に遮られ、圧迫感もなくていいですね」と、豊島都税事務所副所長の中川健一さん(59)は話した。

(小森風美、写真も)

 DATA

  設計:大江匡/プランテック総合計画事務所
  階数:地上7階、地下6階、塔屋2階
  用途:都税事務所、保育園
  完成:1996年7月

 《最寄り駅》 池袋


建モノがたり

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(2020年4月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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