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建モノがたり

川崎大師平間寺薬師殿
(旧自動車交通安全祈祷殿)(川崎市)

社寺建築に注いだ深い思い

約半世紀経った今も白い壁が美しく手入れされている。川崎大師のほぼすべての建物が大岡さんの設計=郭允撮影
約半世紀経った今も白い壁が美しく手入れされている。川崎大師のほぼすべての建物が大岡さんの設計=郭允撮影
約半世紀経った今も白い壁が美しく手入れされている。川崎大師のほぼすべての建物が大岡さんの設計=郭允撮影 内部は日本の伝統とインド式の融合もみられる=郭允撮影

白いドーム形の屋根が、青空に映える。昔ながらの住宅地を歩いていて、思わず二度見してしまうあれは何?

 川崎大師境内の南端で異彩を放つ薬師殿は、建築史家で長年にわたり古社寺保存に携わった大岡實さん(1900~87)が設計した。

 伝統建築を愛した大岡さんは戦争中から奈良・法隆寺の防火対策や学術調査に尽力した。しかし49年、国宝保存工事事務所長の時に金堂で火災が発生。責任の有無を問われて休職した後、社寺設計を始め、生涯に100棟以上を手がけた。文化財を失った不幸な経験から、火災に強い鉄筋コンクリートでの建築を進めた。

 川崎大師から設計を依頼された当初は自動車交通安全祈祷殿として。大本堂などとは違う「何か変わった建築を」という依頼に、インド建築の研究成果を生かして提案した。

 大本堂に安置された三像をヒントに三つの塔を造ることにした。3塔のバランスに苦心し、何度も設計図を描き直したという。完成間近のころ、塔の先端の大法輪に光が当たるのを見た人から、「すばらしい」と歓喜の声が上がったと、川崎大師の記録に残る。

 知的で穏やかだけれど、建築美への思いは激しかった――大岡さんについて、川崎大師の他の現場でともに仕事をした大林組元社員・早川孝夫さん(84)らは口をそろえる。現場でもベニヤ板に描いた原寸図に「ミリ単位で修正をかけていた」という。

 約35年後、1キロほど離れた場所に2倍の大きさで新祈祷殿が建てられ、旧殿は薬師殿となった。休日には目の前の芝生で親子連れがくつろぐ憩いの場所になっている。

(栗原琴江)

 DATA

  設計:大岡實
  階数:2階
  用途:寺院
  完成:1970年11月

 《最寄り駅》 川崎大師


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 川崎大師の門前には、参拝客向けのお店が並ぶ。珈琲茶房 餅陣住吉(問い合わせは044・277・4439)では、お土産の定番「久寿餅」と千葉県のマザー牧場から直送されたソフトクリームをのせた「くずもちサンデー」(500円)を味わえる。午前9時~午後4時半。不定休。

(2020年8月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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