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建モノがたり

富弘美術館(群馬県みどり市)

村ぐるみ 設計コンペに1211案

山並みと草木湖をバックに。屋根は濃淡の違う4種類のグレーで塗装されている。入り口は向かって右側。午前9時~午後5時、11月29日までは無休
山並みと草木湖をバックに。屋根は濃淡の違う4種類のグレーで塗装されている。入り口は向かって右側。午前9時~午後5時、11月29日までは無休
山並みと草木湖をバックに。屋根は濃淡の違う4種類のグレーで塗装されている。入り口は向かって右側。午前9時~午後5時、11月29日までは無休 壁を右に感じながら進むと迷わずに展示を見て回れる

上から見ると、四角い箱の中に大小の茶筒を入れたよう。なぜ円形の部屋ばかりが続く構造に?

 みどり市立の富弘美術館は、地元出身で事故により手足の自由を失い、筆を口でくわえて詩画を制作する星野富弘さん(74)の作品を所蔵、展示する。展示室、ロビー、ショップ、事務所……平面図で見るとすべて円形。廊下はなく、円どうしが接し合う。

 設計案は2001年、インターネットで公募した。当時は人口3500人足らずの勢多郡東村の施設。そこへ54の国・地域から1211点もの応募があり、「コンペ史上最多」と話題になった。すべての案を村の社会体育館に展示。最終の公開審査に村内外から集まった約400人の傍聴者のため、村民がカレーライスと豚汁を振る舞った。

 選ばれたのがヨコミゾマコトさん(58)の案だ。52メートル四方の正方形の中に、直径5~16・4メートルの鉄板製円筒を配置。相接することで強度も増す。「生物や社会のシステムにも通じる相互補完的な構造」という。

 学芸員の桑原みさ子さん(62)は「絵を飾るのに曲面の壁なんて……と言うと、すぐに心配を払拭する説明をしてくれた」と振り返る。建設中や完成後に、だれでも参加できる意見・情報交換の場を計20回近く設けた。その内容は施工者が収蔵庫のしくみを解説したり、カフェのコンセプトを検討したりと幅広い。

 当の星野さんはというと、「最初は使いづらそうだなと思ったけれど、円形の柔らかさが自分の作風に合う。隅ができないのもいいなと思いました」。

(牧野祥、写真も)

 DATA

  設計:aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所
  階数:地上1階
  用途:美術館
  完成:2004年9月

 《最寄り》 わたらせ渓谷鉄道神戸駅からバス


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 渡良瀬川中流にあり「関東の耶馬渓」とも称される高津戸峡は、わたらせ渓谷鉄道大間々駅から徒歩10分ほど。高津戸橋からはねたき橋まで500メートルの遊歩道が整備されていて、紅葉の名所でもある。問い合わせはみどり市観光課(0277・76・1270)。

(2020年10月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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