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建モノがたり

ドラード和世陀(わせだ)(東京都新宿区)

大勢の個性 なりゆきで全開

1階左側の円窓は画廊、中央は居住エリアの入り口
1階左側の円窓は画廊、中央は居住エリアの入り口
1階左側の円窓は画廊、中央は居住エリアの入り口 居住エリア入り口の床には奇抜なモザイク画 1階通路。突き当たりの壁に関係者の名前を記したプレートが掲げられている オブジェのような巨大な手は椅子

大隈講堂の鐘の音が響く早稲田かいわいで異彩を放つ、デコレーションケーキのようなビル。誰がどうやって造ったの?

 近づくと、七色のタイルがうろこのように施され、鋳造の彫刻やモザイク画、ステンドグラスが目を引く。内部をのぞき込むと、壁や天井の立体的装飾、壁画にオブジェ、1軒ずつデザインが違う浮き彫りの郵便ポスト……様々なモチーフや雰囲気が、混然一体となっている。

 「コンセプトはない」と話す設計者の梵寿綱さん(86)は、自身もここに住む。米国で美術を学んだ経験から、思いつくまま造ったのだという。費用を抑えるためトイレ用のタイルを使い、工芸家の妻や息子と共に自ら外壁を装飾した。一般的なマンション建築で設計者の裁量は大きくないが、梵さんの建築を望んだ地主や施工主との縁で、破格のデザインが実現した。

 建築に参加したいと、プロアマ合わせ十数人の造形家や工芸家がつてをたどって集まった。なりゆきに任せるのもおもしろいと打ち合わせはせず、それぞれが床や壁、オブジェなどを自由に造った。制作の途中で梵さんが口を出すことはなかった。「自分の意思ではないところに想定外のものが生まれる。一人の才能や個性には限界があるからこそ、みんなで造る」

 人間の存在や人生の意味を問い、青年時代は演劇を志した梵さん。早稲田大で建築を学んだのは、「演劇に一番近い理系の学問」と考えたから。「建築をガリガリやっているんじゃなくて、人と一緒に造るのが好きなんだ」。通路の一角には、工事や仕上げに関わった160人ほどの名前が経典のように記された金のプレートが掲げられている。

(山田愛)

 DATA

  設計:梵寿綱

  階数:6階
  用途:店舗、マンション
  完成:1983年9月

 《最寄り駅》 早稲田


建モノがたり

 1階には主に現代作家を扱う画廊ドラードギャラリー(問い合わせは03・6809・3808)が入る。オーナーは別の物件を契約する前夜、めったに出ない空室を見つけたと喜ぶ梵寿綱建築の大ファン。味のある店内は撮影に使われることも。

(2020年12月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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