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建モノがたり

IRONHOUSE(アイアンハウス)(東京都世田谷区)

鉄板打ちっ放し 百年の計

2011年の日本建築学会賞を受賞。季節ごとに実や花をつける植栽は断熱にも一役買っている
2011年の日本建築学会賞を受賞。季節ごとに実や花をつける植栽は断熱にも一役買っている
2011年の日本建築学会賞を受賞。季節ごとに実や花をつける植栽は断熱にも一役買っている 地階の居間と「アウタールーム」は床面に段差がなく一体感がある。コルテン鋼の建具を両脇に寄せて開放する=いずれも梅沢良三さん撮影

生い茂る植物に覆われた、船の一部にも見える鉄の塊。この建物はなに? こんなにさびていて大丈夫?

 閑静な住宅街で目を引く、むきだしの鉄板。各地の公共建築なども手がける構造家・梅沢良三さん(77)が、自ら提唱する理論で「超長期住宅」を実現させた自宅だ。

 住宅が新築されてから解体されるまで、日本では平均約30年。人生100年を生きるには、家を1回建てるだけでは足りなくなる。費用の負担や、資源・環境問題などに対応するため、住宅は100年以上もつ丈夫なものでなければならない。一方で、年月とともに必要な間取りは変わるため、内部は柔軟に変えられるスペースにしたい――。

 こうした考えに基づいて、梅沢さんが採用したのが、橋の建設などに使われる「コルテン鋼」だ。表面の緻密(ちみつ)なさびが保護膜となり、鋼材内部への腐食を防ぐため耐候性、強度が高い。2枚の間に断熱材を挟んだパネルを溶接で組み立て、壁そのものを構造体とした。

 意匠設計は建築家・椎名英三さん(76)が担当した。L字形の建物で中庭を囲む配置。居間や食堂のある地階レベルに合わせて掘り下げ、床面の段差のない中庭は「アウタールーム」として一つの部屋のような空間に。地下でも自然光が差し込み閉塞(へいそく)感はないが、静かで落ち着ける。外の自然と連続した「空間の広がり」を重視した、と椎名さん。緑豊かな空間は梅沢さんのお気に入りの場所になっている。

 建築・構造の専門家として、周囲の環境への配慮も当初から織り込んだ。さび色の鉄の塊が不快感を与えないよう外壁に植物をはわせた。階段状にした屋上には盛り土して樹木や草花を植え、外からも緑の景観を楽しめるようにした。

 「100~200年、メンテナンスフリーで使える材料は鉄のほかにはないんです」。住宅に使った前例の少ない素材にこだわり、独自の工法を考案した梅沢さん。孫の代へとつないでいく未来が楽しみだ。


(吉﨑未希)

 DATA

  設計:椎名英三+梅沢良三
  階数:地上2階、地下1階
  用途:個人住宅
  完成:2007年


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 成城学園前駅から徒歩約6分の成城五丁目猪股庭園では、建築家の故吉田五十八さんが設計した数寄屋造りの邸宅と、多種類の樹木やスギゴケが覆う回遊式の日本庭園が見られる。午前9時半~午後4時半。無料。(月)((祝)の場合は翌平日)、年末年始休み。問い合わせは世田谷トラストまちづくり(03・3789・6111)。

(2021年7月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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