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建モノがたり

山安 ターンパイク店(神奈川県小田原市)

大看板なくても存在感十分

夜は神殿のような幻想的な雰囲気になるという。大屋根の上にはソーラーパネルを設置、冷凍庫などに必要な電力の一部をまかなう
夜は神殿のような幻想的な雰囲気になるという。大屋根の上にはソーラーパネルを設置、冷凍庫などに必要な電力の一部をまかなう
夜は神殿のような幻想的な雰囲気になるという。大屋根の上にはソーラーパネルを設置、冷凍庫などに必要な電力の一部をまかなう 天窓には天日干しの干物を模したステッカーが貼られ、柱や床に影を落とす

  箱根も近い観光エリア。ドライブ中にも気になってしまう、柱ニョキニョキの建物は何?

 1863(文久3)年創業、神奈川県で10店舗を展開する干物製造・販売の「山安」。2003年に創業地小田原に出した直売1号店は、箱根方面への観光有料道路の出入り口近くにある。

 車から目立つ存在感がほしいが、景観条例で大きな看板は設置できない。新たな建物を建てるにあたり設計を担当した森屋隆洋さん(38)自身も、店の看板が派手さ大きさを競うロードサイド風景に違和感を抱き別の方法を模索していた。

 立ち並ぶ紡錘形の柱は、地表から突き出したタケノコのようでもあり、納豆のわらづとを埋め込んだようでもある。森屋さんは魚が跳ねる様子や、社名にある「山」が連なるイメージを重ねたというが、「いろいろな解釈をしてもらっていいです」。

  微妙な曲面のデザインは、特殊な粘土で陶芸のように模型を作りながら決定した。27本の柱はそれぞれ構造的な役割があり、太さや形状が全て違う。表面の仕上げはカヌーを参考に、杉材を貼った。カットは高性能の機械を使ったが、貼り合わせるのは「職人さんの感覚と手仕事」のたまものという。

 「魚を育む山と海のつながりも表現してもらえた」と5代目の山田満社長(49)。軒先の広い大屋根が市場のように入りやすく、全面ガラス張りで開放感のある店内には80~100種の自慢の干物のほか、弁当や総菜も並ぶ。食堂も設けた。

店長の山口洋平さん(42)は、新たな客に認知されている手応えを感じるという。「建物のパワーがすごいです」。新装オープン以来、コロナ禍で見通しにくい状況が続くが、干物の魅力をさらに発信したいと考えている。

(小寺美保子、写真も)

 DATA

  設計:MORIYA AND PARTNERS
  階数:地上2階
  用途:地上2階
  完成:2020年

 《最寄り》 箱根板橋


建モノがたり

 2階の山安食堂(0465・20・1137)では、アジ、キンメダイ、カマスなど焼きたての干物定食を提供する。キンメダイのひつまぶし(1千円)や、イカの干物入りタルタルソースをかけたアジフライ定食(800円)も人気。午前11時~午後3時(2時半ラストオーダー)。

(2022年3月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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