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建モノがたり

ノアの箱舟(札幌市中央区)

大洪水後 ススキノに漂着!?

2階部分が「石化した木造舟」で右側が船首。1階と後ろ側が「舟がめり込んだ岩山」という設定。手前の流れは創成川上流の鴨々川
2階部分が「石化した木造舟」で右側が船首。1階と後ろ側が「舟がめり込んだ岩山」という設定。手前の流れは創成川上流の鴨々川
2階部分が「石化した木造舟」で右側が船首。1階と後ろ側が「舟がめり込んだ岩山」という設定。手前の流れは創成川上流の鴨々川 階段の壁面には箱舟に乗せられた動物たちの絵がコミカルに描かれている

 約1万年の昔、大洪水を生き延びたノアたちの箱舟が巨岩に乗り上げた。はるかな時を経て岩山を掘ったら、化石化した舟が出現--。

 現在は海鮮レストランが入る商業ビル「ノアの箱舟」計画時のコンセプトだ。築30年余りの今も、新築時の古さ(?)を保っている。

 不動産開発・賃貸のジャスマック(東京)が「長期にわたり札幌の名所になるような建物を」と構想した。依頼に応えた英国人建築家ナイジェル・コーツさん(73)は、鴨々川べりの三角形の土地を見ながら想像をめぐらし、その日のうちに「石化したノアの箱舟」のスケッチを描いた。

 見どころの一つが、古代遺跡のような内外の壁。コンクリートに特殊なモルタルを吹き付けたり、半乾きの状態でかき落としたり。自然のままの部分、文明化して人の手が入った部分などの想定によって、質感や色など仕上がりを調整した。

 三角屋根の舟部分のデザインは、古代ローマに先立つエトルリア文明の影響を受ける。内部の壁画は、2人の英国人アーティストを招いて描いてもらった。

 金具や建具、装飾品などにもこだわり、多くを海外から輸入した。船首に置いたノア夫妻がモチーフの銅像は輸送中に手足が破損し、現場で組み立て直していたところ警察に事情を聴かれた。「人骨と間違われたようです」と、現場監督をしていた竹内正実専務(66)は苦笑する。

 バブル時代の完成時にはたびたびメディアで取り上げられた。その後海外で紹介され、雑誌を手に訪れる人も。新築された〝遺跡〟は多くの人をひきつけながら時を刻んでいる。

(栗原琴江、写真も)

 DATA

  設計:ブランソン・コーツ・アーキテクチャー、弾設計
  階数:地上2階、地下1階
  用途:飲食店など
  完成:1988年

 《最寄り駅》中島公園


建モノがたり

 徒歩2分の中島公園内にある豊平館(問い合わせは011・211・1951)は、北海道開拓使がホテルとして建てたアメリカ風建築を基調とした洋館で国の重要文化財。白い外壁、群青色の縁取りが美しい。館内ではロビー階段、暖炉、こて絵が施されたしっくいの天井などが見どころ。入館料300円。

(2022年3月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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