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建モノがたり

湘南キリスト教会(神奈川県藤沢市)

連なる曲面屋根 光移ろう祈り空間

6枚の円弧屋根が天地創造の6日間を意味し、礼拝が7日目を表すという考えが込められている

 閑静な住宅街が広がる神奈川県藤沢市の辻堂東海岸2丁目。コンクリート打ち放しの平屋が、松の木々のなかに溶け込むようにたたずんでいた。

 横長に約22メートルにわたる壁面は、大きさが異なる六つの曲面屋根で円弧状に切り取られ、穏やかなリズムが感じられる。

 「屋根は6日間の神の御業(みわざ)を表し、7日目を安息日とする天地創造をモチーフにしました」。湘南キリスト教会を設計した保坂猛さん(50)は振り返る。

 礼拝堂に入ると、壁や天井の大半は灰色なのに、明るい空間が広がっていた。屋根と屋根の間に細長く設置された窓から、光が差し込む。午前中はやわらかな光で満たされ、午後は斜めに光が降り注ぐ。

 「直射光は聖書が読みにくい。礼拝時間の午前10時半から正午までは空の明るさを取り込む天空光、午後は直射光が注ぐ空間を考えました」
 教会建築は初めてだった保坂さん。参考にしたのは、直射光が注ぐ回廊と天空光に包まれる礼拝堂の光の使い分けが鮮やかなバウスベア教会(デンマーク)だった。ただ、領域で光を分ける広い敷地は湘南キリスト教会にはない。「ならば時間帯で分けることができないか」

 パソコン上で正確な緯度、経度を設定し、15~30分刻みで1年の直射光の入り方をシミュレーション。屋根の重なり方や窓の位置、大きさをミリ単位で調節し、祈りの空間を生み出した。

 壁面をよく見ると、ランダムな間隔で凸凹になっている。コンクリートは音が響きやすいため、賛美歌には良いが、牧師の言葉が聞き取りにくい。そこで壁に凹部を作り、吸音材をはめ込むことで音響のバランスも図ったという。

 1964年から続く教会。移設前は木造2階建てだった。牧師の古屋順史さん(58)は「完成前に模型を見た時は度肝を抜かれたが、実物の美しさに感動した。厳かな気分になると言う礼拝者もいます」と話す。

 毎週日曜日、心地よい光の中で、オルガンと賛美歌、祈りと聖書の言葉が礼拝堂に響き渡っている。

(増田裕子)

 DATA

  設計:保坂猛建築都市設計事務所
  階数:地上1階
  用途:教会
  完成:2014年

 《最寄り駅》:藤沢駅からバス

 

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 徒歩約10分の辻堂海浜公園は辻堂海岸沿いに広がる都市公園。園内にある六つのプールが人気(有料)。「しょうなんの森」の高台からは、江の島や海に沈む夕日を眺めることができる。問い合わせは公園管理事務所(☎0466・34・0011)。

2025年7月22日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。

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